2012/08/17
人口減に悩む地方自治体が進める移住対策で、就労がネックになっている現状を7月20日付の生活面で伝えた記事に、読者から「就農にも高い壁がある」との反響があった。担い手不足から国を挙げて就農対策を進めているものの、体験者の話からは農地確保が難しい現状が浮かび上がる。 (田辺利奈)
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岐阜県養老町の養老公園近くの県道から脇道に少し入ると、竹林と木々に囲まれた中にぽっかりと畑が広がる。愛知県愛西市の酒井謙二さん(62)が昨年購入した土地だ。妻の恵子さん(62)と、サツマイモやトウモロコシなどを育てている。シカやイノシシが畑を荒らすため、頑丈な囲いを作った。「この土地にどの野菜が合うか、試行錯誤中です」と笑顔を見せる。
酒井さんは大学農学部を卒業し、一般企業に就職。ずっと、移住して農業で生計を立てることにあこがれていた。自営業を経て数年前、ようやく農業を始めようとして、立ちはだかったのが農地法。一定以上の面積を耕作する「農家」でないと農地が取得できないと知った。仕方なく、昨年10月に雑種地として公売にかけられていた土地約5000平方メートルを318万円で手に入れた。
問題になったのは、固定資産税評価額。農地なら1平方メートル当たり約60円だが、雑種地は同約1万円。酒井さんの土地は約5000万円と評価され、本年度は約48万円課税された。「318万円で買ったのに、評価額が5000万円なんて納得できない」
一部で既に耕作を始めており、見た目は畑。同町の税務担当者に現場を見てもらうなど、評価額を再検討してもらった。
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個人が農業参入する場合、営農計画がある▽常時(原則年間150日以上)農作業に従事している▽一定以上の面積を経営している-などの条件を満たし、農地の購入や賃貸借を農業委員会から許可してもらう必要があり、ハードルが高い。
農家でない人が農地を買ったり、借りたりするには「認定就農者」になる方法もある。一昨年、認定就農者となった三重県の30代男性は1年間、地元の農家で研修を受けた後、営農計画を県に提出。審査に通って晴れて農家と認定された。
難しかったのが営農計画の作成。場所や面積、農業に使う機材などはもちろん、まだ作物を売ったこともないのに、年間の売り上げ計画などを細かく書く必要があった。「想像で書くしかない部分もあった」と男性。
農地取得にも壁があった。男性は「営農計画作成のため、研修期間のうちから農地候補を探す必要がある。ところが、空き農地はたくさんあるのに、集約して再分配する仕組みが機能していなかった」と話す。
遊休農地を借り上げ、生産意欲のある農家に貸したり、売却したりするため、各都道府県に「農地保有合理化法人」が設けられている。しかし、男性の場合、地域の農協に頼んでも条件に合う土地は紹介してもらえなかった。「新規参入者に積極的に土地を貸す雰囲気ではなかった。農家の子以外には厳しい制度」と男性は振り返る。結局、地元で見つけた空き農地の持ち主を探し、直接頼んで貸してもらったという。
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新規農業参入を支援する全国新規就農相談センターの昨年の調査によると、「新規就農時に苦労したこと」(複数回答)=表=で最も多かったのが「農地の確保」だった。同センターの宮井政敏相談員は、農地保有合理化法人が農地を長期間借り上げても、貸し出す見込みがなく、赤字に陥ることもあるという。「あまり機能しておらず、時代に合っていないのではないか」と指摘する。
【農地保有合理化法人】 農業経営基盤強化促進法(1980年)に基づき、効率的かつ安定的な農業経営を目指す組織。自治体の農業公社や農協などがその役割を担う。離農農家や規模縮小農家などから農地の買い入れや借り入れをし、規模を拡大しようとする農業者に売り渡しや貸し付けなどをする。
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