2012/08/10
仕事の適性焦らず確認
配偶部署の理解を促す
企業などに義務付けられている障害者の雇用は、これまで身体・知的障害が中心だったが、厚生労働省の有識者の研究会は、雇用義務に精神障害を加えることを求める報告書をまとめた。雇用する経営者や同僚となる従業員たちは、どんな意識を持てばいいのか。熱心に取り組んできた製薬会社・日本イーライリリー(神戸市)の実践を紹介する。 (編集委員・安藤明夫)
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本社ビルの地下。さまざまな文具が並んだ「リサイクル室」で、20~30代の男性3人が整理作業に励んでいた。
いずれも精神障害や発達障害があり、契約社員として働く。統合失調症の製薬企業である同社は、精神障害者の社会復帰に協力するため、2006年に雇用を開始。職務の1つとして「文具リサイクル」を始めた。
社員たちが机の中に眠っている文具、不要になったファイルなどを部署ごとにまとめておくと、彼らがコピー機のメンテナンスのついでに集め、リサイクル室で分類。文具は社員が自由に持ち出していい。この取り組みで、文具費を前年度比72万円節約したという。
同社は法定雇用率を上回る37人の障害者を雇用し、うち13人が統合失調症、うつ病、アスペルガーなど精神障害・発達障害の人たち。製薬工場でも清掃や計器の測定などに従事している。
能力、特性は人それぞれだ。工場内では清潔保持のため、キャップ着用を義務づけられるが、感覚過敏の症状がある30代の男性は「あごひもの感触が苦痛でキャップは嫌」と訴えた。工場の担当者は考えた末、フード付きの制服を探してきた。今では丁寧な測定作業が信頼を得ている。別の30代男性は、熱心に在庫管理の仕事をしていたが、通常と違う項目が入る日は失敗を重ねた。周囲が支え続け、1年半かかってマスターした。
同社の障害者雇用の推進役・畠岡裕幸さん(41)は「本人に合わない仕事か、周囲が協力すればできるのか、焦らず見極めることが大事」と話す。入社時に本人の適性や能力、意欲をよく確かめ、配属部署に説明して理解を求める。1日6時間の制限勤務から始め、多くは1年以内にフルタイムになる。通院日には休んでもらう。病状悪化で契約を打ち切らざるをえなかったケースもあるが、仕事ぶりを信頼され、長く働く人が多いという。
畠岡さん自身も、大学時代の交通事故で車いすの身。担当になって3年間で障害者雇用が急速に増えた。「障害者が大変な日常の中で働こうとする理由は、自分の可能性を広げる、社会に出たい、家族を支えたい、などさまざま。そうした本人の思いに応えることで、企業の側にもメリットがある」と力を込めた。
◆義務付けへ来年にも法改正
精神障害者の就労支援はここ数年、急速に進んだ。ハローワークには精神保健福祉士などの資格者が配置され、段階的に就業時間を延長する雇用奨励金などが打ち出された。各地の障害者就業・生活支援センターの精神障害者の登録者数も、2006年の約4600人から、11年は約2万5000人と増えた。
この状況を受け、有識者でつくる研究会は、精神障害も法定雇用の対象にするよう求める報告書を7月24日にまとめた。
従来は民間企業(従業員56人以上)の場合、全従業員の1・8%(来年4月以降は50人以上で2・0%)以上の障害者雇用が義務付けられていた。精神障害者は対象外で、雇用した場合は「身体・知的障害者」とみなした。新たに対象となるのは統合失調症、うつ病、双極性障害、てんかんなどで、精神障害者保健福祉手帳を持つ人。
厚生労働省は障害者雇用促進法の改正案を、早ければ来年の通常国会に提出する。
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