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【くらし】はたらく/介護休業利用にためらい「仕事と両立」に読者の声

2012/08/03

93日「一度きり」悩む

 6月22日付の本欄「介護と仕事 両立を支援」の記事に、介護と仕事の両立に悩む読者から体験談や意見が寄せられた。育児・介護休業法は、介護が必要な家族1人につき通算日間の介護休業を保障している。ただ、介護は長丁場になることが多く、先が見通せないだけに、取得をためらわせる現状がある。 (稲熊美樹)

 愛知県の会社員の女性(40)は8年ほど前、母親(69)が脳梗塞で倒れたのをきっかけに、勤めながらの介護が始まった。アルツハイマー型の認知症になり、ふさぎがちで寝てばかりの生活に。女性の家事の負担は増え、母親の通院にも有給休暇を使って付き添った。

 母親は、子どものように聞き分けがなくなった。日中のデサービスに出掛けるのを嫌がり、1年がかりで説得、ようやく聞き入れてもらった。しかし、夜泣きやおむつはがしをするようになり、心も体もへとへとに。追い詰められた女性は「このままでは、共倒れしかねない」と、半ば強制で特別養護老人ホームへ入所させた。

 当初は「私も帰る」と泣いていた母も、入所から3年半たち、今では、手を振って見送ってくれるようになったという。

 女性は介護休業制度を利用したことはなかった。その理由を「母はまだ若く、今介護休業を使ってしまうと、さらに症状がひどくなったとき、会社を辞めざるを得なくなると思った」と話す。

 短時間勤務制度もあるが、利用すると勤務形態上、別の部署に異動しなければならない。「職場環境に慣れるまで、いろいろ覚えなければならず、ハードルが高かった」と振り返る。

 法定では、介護休業は93日を上限に連続して取得するとされており、要介護状態が変わらなければ、分割して複数回に分けて取ることができない。先の女性のように、介護者は「もっとひどくなったときに備えて権利を取っておきたい」と考え、「1度きり」の休業をためらう。

 認知症の父を在宅で介護しながら、フルタイムで働く愛知県の女性(53)も「介護はいつまで続くのか分からない。休暇や休業の制度があっても利用しにくい」のが実感だ。他の読者から寄せられた意見でも「休みどき」を悩む人が多かった。


◆環境整える準備に使って
◆専門家指摘職場の理解不可欠

 働きながらの介護に詳しい、みずほ情報総研(東京)のコンサルタント小曽根由実さんは、介護休業について「介護をしながら仕事を続けるための環境を整え、準備するための期間」と説明する。

 高齢者の介護は長引くことが多く、制度で定められた期間内に終わることはまれ。あくまで、介護は介護保険制度に任せることが基本で、長期的な介護の方針を決めるまでのつなぎとして、介護休業を取得するのが制度の考え方だ。

 厚生労働省の委託調査「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査」(2010年)によると、介護する中で困ったこととして「いつまで、どのくらい介護が必要となるかの見通しが立たない」を挙げた人が、34・4%と最も多かった=表。

 有給休暇や介護休業が不足するといった制度面の不十分さ、「上司の理解が得られない」など職場の理解不足も、仕事と介護の両立の妨げになっている。

 介護者が仕事を休んだり、短時間勤務をする場合には、会社側の配慮も必要だ。小曽根さんは「介護する側の職業キャリアまで考えることが必要」と指摘。休職中のフォローや、復職への対策の必要性を訴える。

【育児・介護休業法】 改正法が従業員100人以下の企業も含め、7月から全面的に施行。要介護状態の家族が1人の場合に年5日、2人以上だと年日の介護休暇が新設された。要介護者1人につき通算日間の介護休業は、再介護が必要になった場合、日のうち残りの休業日数を取得できる。独自の制度で、介護休業を1年間や3年間としたり、分割取得できる企業もある。

(中日新聞 朝刊)

本紙に寄せられたメールや手紙、ファクス。介護と仕事の両立への思いがつづられている
本紙に寄せられたメールや手紙、ファクス。介護と仕事の両立への思いがつづられている