中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【暮らし】<はたらく>無料の社食で「ひらめいた」 職場の垣根を越えた交流

2012/06/29

 上下関係や部署の違いで鈍くなりがちな会社内のコミュニケーション。垣根を越えて気軽に交流を深めてほしいと、社員食堂や寮を新たに整備する企業も現れている。福利厚生の充実につながり、会社のPRにもなっているようだ。 (砂本紅年)

 平日の正午すぎ、東京・渋谷のネット関連大手「GMOインターネット」。社員食堂にいた男性社員4人のテーブルをのぞくと、ランチを食べながら仕事の話で盛り上がっていた。

 「開放的な雰囲気だから、いいアイデアが出る。会議室だと息苦しいでしょ」とブログ事業の管理職男性(30)。社内で近々、新規サービス事業をテーマにした発表会があるので、アイデアを出し合っていたという。

 四人は部署も立場も違い、普段一緒に仕事をすることはないが、社内チャットでの「食堂に行こう」という呼び掛けに応じて集まった。呼び掛け人のエンジニア男性(29)は「集まる人はいつも違うので、ランチは毎回違うメンバー。いろんな視点があり参考になる」と話す。

 同社は昨年六月、食堂中心の「コミュニケーションスペース」を開設した。普段はカフェで、昼はビュッフェ方式のランチタイム。焼きたてパンや健康に配慮したメニューなど、街中のしゃれた店のような品ぞろえ。

 子ども用いすがあるのは、社内託児所に預けた自分の子どもと食べることもできるから。金曜日の夜には専属ソムリエのいるバーになり、ワインなどの酒が社内で飲める。ランチを含めて料理や酒はすべて無料と、至れり尽くせりだ。

 月に3000万円の運営費がかかるが、「投資効果はコスト以上のものがある」と広報部マネージャーの細田暁貴さん。グループ会社が57社あり、会社や部署の垣根を越えてコミュニケーションを活性化する狙いがあった。「スピードが命の業界。横に連携する仕事が多く、スタッフが集まりやすい場所が必要」

 実際、違うグループ会社のスタッフがたまたま食堂に集まったのをきっかけに、スマートフォンの新規サービス開発に至った事例があるなど、開発スピードは上がっているという。社内にはマッサージ師のいるマッサージルームや昼寝スペースもあり、気軽に気分転換を図れる。

 こうした取り組みで知名度が上がり、昨年の新卒応募者数は例年の5割増し。中途採用の応募者数も4~6倍増という予想外の効果も。広報部の石井晴美さんは「人材の引き抜き合戦がある業界だが、『スタッフを大事にする会社』というメッセージを発信できた」と話す。

     ◇

 長期の不景気で寮や社宅を廃止する企業は多い。そんな中、東京・丸の内の建設業JFEエンジニアリングは昨年10月、横浜市内に独身寮を開設した。自社の最新技術を取り込んだショールームを兼ねているが、新人社員らのコミュニケーションの活性化も狙いの一つという。

 入社3、4年目までの社員ら170~80人が入居し、「部屋の行き来が活発らしく、先輩の部屋で飲んでいるという話もよく聞く」(広報室)。新しい独身寮に住みたいと、新卒の応募者数も増えているという。

 慶応大経済学部の太田聡一教授(労働経済学)は「企業独自の福利厚生が縮小される傾向が強い中、いずれも福利厚生をうまく使って経営戦略の1つとした好事例だろう。若手社員とのコミュニケーションをどう深めるか、頭を悩ませている企業にとってヒントになるのでは」と話している。

無料で食べ放題、飲み放題の食堂でコミュニケーションを深めるスタッフ=東京・渋谷のGMOインターネットで
無料で食べ放題、飲み放題の食堂でコミュニケーションを深めるスタッフ=東京・渋谷のGMOインターネットで