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【くらし】資金難で苦戦 高校生の就業体験「教育基金」で支援目指す

2012/05/17

愛知・東京のNPOら
大学生も寄付活動に協力

 厳しい就労状況を背景に拡充が期待されながら、人手や資金の不足に直面しているインターンシップ(就業体験)などの「キャリア教育」。現状を改善しようと、教育、人材育成などに取り組む東京や愛知のNPO関係者らが独自に教育基金を設立した。まずは今夏、愛知で就業体験を企画するため、大学生らが寄付集めに奮闘している。 (境田未緒)

 愛知県の自動車内装メーカーで働く夏目祐希さん(19)は「インターンシップの経験は今も仕事に生きている」と振り返る。

 一昨年の高校3年の夏休み、名古屋市のNPO法人「アスクネット」が県の委託で実施したインターンシップに参加。自動車部品大手のアイシン精機(愛知県刈谷市)が社会貢献活動の一環で開いた「もの作り教室」で、小学生らにモーターで動くおもちゃの作り方を教えた。

 社員から手ほどきを受け、数十人の子どもを他校の生徒2人と指導。うまくできるか不安だったが、子どもたちから「ありがとう」と感謝され、うれしかった。社員からの気遣いに「社会人の器の大きさ」を知り「働くことは社会活動」とも感じた。経験を就職活動の面接で話し、第1志望の会社に就職。仕事は大変でも、自ら成長しようと日々頑張っている。

 愛知県は2009年度から、国が交付した「ふるさと雇用再生特別基金」でキャリア教育コーディネーターの育成などを実施。委託を受けたアスクネットが11人を育成し、インターンシップや社会人講師派遣などに取り組んだ。

 「企業に協力をお願いし、体験内容も提案する。生徒が自分の成長に気付けるような事後学習も大事」とコーディネーターの1人、米蔵雄大さん(25)。

 意欲的な取り組みにもかかわらず、特別基金は3年で終了した。やむなく、アスクネットはコーディネーターを5人に減らした。自主事業として、続けざるをえない状況だ。

     ◇

 若者の就職難や早期離職の問題が表面化する中、インターンシップを取り入れる学校は増えている。ただ自治体や学科による差が大きく、国立教育政策研究所(東京)の全国調査では、高校普通科での参加率は17%(10年度)にとどまっている。国や自治体の予算は当てにならない状況。授業や部活動などに追われている高校の先生にも頼りきれないのが現状だ。

 こうした中、アスクネットなど東京、愛知のNPOが中心となって2月に設立したのが「一般社団法人アスバシ教育基金」。高校生60人が夏にインターンシップをできるようにと、早速、費用500万円を目標に寄付の募集を始めた。4月には、趣旨に賛同した大学生13人が寄付の呼び掛け活動に加わった。

 大学生らは、自ら掲げた課題に挑戦することで寄付を募るインターネットサイト「ジャスト・ギビング・ジャパン」に登録。「海外の大学の講義を電子書籍にする」などの試練に挑み、支援を求めた。「高校生が職場体験を積むことはすばらしいことだから」。愛知淑徳大2年、大岩里恵さん(19)はそんな思いで、実家の養豚業を題材に命をテーマにした子ども向け映像作品の制作に挑戦した。

 インターネットを通じ、個人それぞれに寄せられた寄付は数1000~1万数1000円ほどだが、4月下旬、名古屋市内で開いた“挑戦”の報告会では約11万円が集まった。全体では、寄付金は、目標の半分の約250万円に上っている。

 アスクネット理事で、アスバシ代表理事も務める毛受(めんじょう)芳高さん(40)は「若い世代が成長できるこうした基金の仕組みを広げていきたい」と話している。

【ジャスト・ギビング・ジャパン】 ジャスト・ギビングは、インターネットを使った寄付の仕組み。英国で2001年に始まった。日本では10年からサービスが提供されている。個人が支援したいNPOなどの団体を選び、「フルマラソンを走る」などの目標に挑戦することで、知人ら(サポーター)から寄付を募る。アスバシ教育基金を支援する挑戦も同サイトで見られる。

4月下旬に開かれた大学生の「挑戦」の報告会=名古屋市熱田区で
4月下旬に開かれた大学生の「挑戦」の報告会=名古屋市熱田区で