2012/03/30
3月中旬、国内初の遺品整理会社「キーパーズ」(愛知県刈谷市)の遺品整理作業の現場に同行させてもらった。
訪れたのは、愛知県内の築70年ほどの平屋。中に入ると、家具や家電、日用品があふれ、あるじだった90代の女性の生活の跡がそのまま残されていた。「どこに何があるかも分かりません」。立ち会った70代の長男ら家族四人が、従業員に口々に言った。
女性は、長男らが自立した後に夫婦で引っ越し、40年ほどを借家のこの家で過ごした。10年前に夫に先立たれた後は独り暮らし。まだ身の回りのことは自分でできたが、徐々に自由が利かなくなっていたのか、台所の床には大量の不用品が。1月に訪問してきたホームヘルパーが、亡くなっていた女性を発見した。長男の妻は「年末に来たときは元気だったのに…」とつぶやいた。
借家のため、家族は室内を片付ける必要に迫られていた。だが、それぞれ仕事を持っていて時間がなく、たんすや本棚など大型の家具を処分するすべもない。葬祭業者の紹介でキーパーズに連絡した。
「午後1時に来てもらえますか」。午前10時前、従業員の谷茂さん(33)が家族に告げると、5人が作業に取り掛かった。
電気ヒーターやラジカセなどの家電。日本人形が置かれた飾り棚やテレビ台といった家具。壁に掛かった絵や書、カレンダー。夫の分を含めた生活用品を次々運び出し、玄関の外で一般廃棄物処理業者に引き渡す。
常備薬や筆記具など細かな品々は段ボール箱に詰める。書類は1枚1枚処分してよいかを確認。アルバムや8ミリフィルムなどを見つけると、処分するかを後で家族に確認するため取り分けた。本棚からは、血圧など日々の体調が細かに書かれたノートが大量に出てきた。
1時間半ほどで荷物があらかた外に出されると、室内からは生活感が消えうせていた。天井や壁のほこりを払った後に掃除機をかける。トイレや水回りも手早く掃除。庭にあった物置の解体が終わったころ、家族が戻ってきた。一変した室内に目を丸くしながら「きれいにしていただき、ありがとうございました」と頭を下げた。家主が確認し、午後2時ごろ終了した。
中には、亡くなったまま数週間気付かれず、遺体が傷んだり虫が湧いたりした部屋を片付けることも。自殺した痕跡が生々しい現場もある。
以前は不動産会社に勤めて顧客のクレーム対応に追われていたという谷さんは「人ができないことをするので感謝される。やりがいがある仕事です」と語った。
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引っ越し業をしていた吉田太一社長(47)が、遺品整理専門の会社を立ち上げたのは2002年。処分に困った顧客から遺品を引き取ると、非常に喜ばれたため、誰も手掛けていなかった分野に目を付けた。
「天国へのお引っ越しのお手伝い」を掲げ、通帳や印鑑などの貴重品を仕分けるだけでなく、遺品の供養やリサイクル、部屋の脱臭まで引き受ける。費用は2DKの広さで30万円前後だ。
年間1500件もの依頼を受ける。このうち死亡後、長期間発見されない「孤立死」の現場は年間200~300件。80%は男性だ。介護保険を利用し、定期的にホームヘルパーが訪問する高齢者よりも5、60代が多い。
吉田さんは、遺品と向き合うと、核家族化が進行する現代の生活スタイルが問題だと教えられるという。
「漠然と生きずに、自分はいつまで生きるか、を意識した方がいい。現実を知り、“自分は孤立死したくない”と思うことが1番大切ではないでしょうか」。全国から呼ばれる講演の場で、吉田さんはこう語りかけている。 (稲田雅文)
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