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【長野】前倒し806戸の受け皿なく 雇用促進住宅廃止

2008/11/16

 特殊法人の合理化の一環で全国の雇用促進住宅が廃止される。住むのは景気の影響を受けやすい低所得者。厳しい経済状況の中、県内では806戸(9月末現在)の住民が受け皿のないまま家を失う。「家を追われたら生活できない」と訴えるが、国側は「すでに決まったこと」と理解を求めるだけだ。

 「国の合理化は必要と分かります。でも私たちのような人(低所得者)はどこにいけばいいんでしょう」。岡谷市の長地住宅に23年間住む主婦(53)の表情が曇った。

 町工場で旋盤機械や塗装の作業に励み、女手一つで3人の子どもを育ててきた。月収は良い時で15万円。学費のために借金もしたが、最近、子どもが独立。貯蓄の余裕こそないものの生活は安定し、2Kの部屋もようやく広く感じ始めた。

 そんな今年5月、退去を求める書面が郵便で届いた。「突然だった。景気が悪化している嫌なタイミング」。現在の2万円強の家賃は、生活を成り立たせるぎりぎりの額だ。

 公営住宅に空きはなく、生活費や通勤時間を考えると一般の賃貸住宅にも移れない。子どもの世話になるのも、生活を壊してしまわないかとはばかられる。「老後の心配もある。このまま切り捨てられれば路上生活です」と力なく話した。

 雇用促進住宅の廃止は、小泉純一郎首相(当時)が2001年に閣議決定した特殊法人合理化の一環。07年に「雇用・能力開発機構」(横浜市)が15年間で廃止するか地元自治体や民間へ譲り渡すとの方針を決めたが同年末、福田康夫首相(同)が半数を11年度までに前倒しで廃止すると閣議決定した。

 前倒し廃止となるのは、県内では35住宅のうち16住宅、806戸。住民は10年11月末までの退去を求められており、今年10月から住民説明会が住宅ごとに始まった。

 同月29日夜には長地住宅の説明会が近くの公民館であり、主婦を含め40人ほどが集まった。参加者によると、住民側から廃止の撤回を含めた意見、要望が出たという。入居日によっては、150万円まで支給される立ち退き料が出ないことにも「不公平」と反発が起きた。前倒しの理由に挙がる老朽化についても「昨年、耐震工事をしたばかりなのに」と不審がった。

 説明にあたった同機構長野センター(長野市)は会終了後、報道陣に「説明すべきことは説明した。住民の要望は本部に報告する」と説明。同機構は「答えられる要望には答えるが廃止撤回を求められても、国が決めたことなのでどうにもできない。要望などの取り扱いはこれから決める」とした。

 (白名正和)

 【雇用促進住宅】 雇用福祉事業として整備された共同住宅。公共職業安定所(ハローワーク)で職を得た人や家族が住むことができ、家賃は民間の相場よりも安い。全国で1517住宅に97311戸が入居し、長野県では35住宅に2022戸が入居する(いずれも9月末現在)。

 地元自治体への譲り渡しも可能だが、岡谷市や岐阜県の羽島市、美濃加茂市などは財政状況を理由に取得しない方針を示している。

廃止が決まった雇用促進住宅。住むのは景気の影響を受けやすい低所得の人たちだ=岡谷市で
廃止が決まった雇用促進住宅。住むのは景気の影響を受けやすい低所得の人たちだ=岡谷市で