2012/02/04
病気で失業…借金かさみ自殺図る
病気で失業し、青木ケ原樹海(山梨県)で自殺を図ったものの、偶然発見されて生還した東京都板橋区の出山広之さん(48)が1月中旬、埼玉県上尾市の聖学院大で大学生を前に自らの経験を語った。「希望を持つにはまず生活の安定が必要」-。これから社会に出る若い世代にこう助言した出山さん。全国の年間の自殺者は昨年まで14年連続で3万人を超えている。 (稲田雅文)
出山さんが樹海に入ったのは2007年11月。「長いときは6日間飲まず食わずでいたが、意外に耐えられるんです。生きようと思っていなかったから」。出山さんが振り返る当時の心境は生々しかった。
貧困問題を知ってもらおうと、政治経済学部の柴田武男教授が多重債務者の救済に取り組む「太陽の会」(東京都千代田区)の事務局長、本多良男さんとともに招き、学生や教職員50人が耳を傾けた。
出山さんは、働いていた千葉県の製鉄会社の関連会社で定年まで勤め上げるつもりだった。人生が大きく狂ったのは05年5月。心筋梗塞で救急搬送され、入院。休職し、傷病手当の期限の2年がたつと解雇され、社宅も出なければならなくなった。役所に相談に行くと「生活保護ですね。財産を処分してから来てください」と言われ、突き放されたように感じた。
その後は、車で寝泊まりする日々。医師からは「軽作業か事務作業しか許可できない」と言われた。仕事は見つからず、失業給付の期間も終わった。借金は150万円に膨らんでいた。「死ぬしかない」と思い詰め、自殺を決意した。
樹海に入り、手首をカッターナイフで何度も切りつけたが死ねそうになく、餓死しようと決めた。じっとして動かなかったり、移動したりしながら樹海で過ごした。体力の限界に差しかかった約2週間後、通り掛かった人に偶然発見され、救急車で運ばれた。
富士吉田署員に引き渡され、紹介されたのが太陽の会。署員の厚意で渡された交通費で東京へ。神田駅のホームにたどり着いたところで倒れてしまうほど衰弱していた。緊急一時保護センターなどで過ごした後、生活保護を申請。今は清掃の仕事をしながら、太陽の会で相談員も務める。
「希望を持つには安定した生活が大事。自信を持てて初めて希望が持てる」。講演会で出山さんがこう説くと、学生からは「独りで生きるのは難しい。つながりを大事にしたい」などの反応があった。
「誰にでも起こり得ること」との思いが強い出山さんは昨秋、体験を「自殺未遂者 樹海からの生還」として本にまとめた。今は「どん底から抜け出せないから自殺を考える。やり直せる社会にしていくべきでは」と考えている。
同書は郵送料を負担すれば送ってくれる。問い合わせは太陽の会=電03(5207)5520=へ(平日午後1~6時)。
◆自殺の動機健康問題が最多
警察庁の統計によると、自殺による死亡者は1998年以降、毎年3万人を超えている。2010年は3万1690人で、うち男性が2万2283人と7割を占める。
原因・動機で一番多いのは健康問題。経済・生活問題、家庭問題、勤務問題と続く。年代別では50代、60代、40代、30代の順で多い。
無職者、独居者、生活保護受給者にリスクが高いことから、厚生労働省は、ハローワークでの相談体制の強化など自殺対策を進めている。自殺未遂者へのケアとして、救命救急センター職員向けに、搬送された自殺未遂者への対応手引書も作り、研修などに取り組んでいる。
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