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【社会】姉失った女性、臨床心理士に 同じ苦しみ寄り添う

2012/01/17

阪神大震災17年 PTSD克服、東北へ

 阪神大震災で姉を失った徳島県鳴門市の植松秋(みのり)さん(30)は今春、臨床心理士になる。「東日本大震災で苦しむ人たちの心に寄り添いたい」。悲しみを抱いて、それでも懸命に生きてきた。阪神大震災から17日で十七年。思いは阪神と東日本の被災地を結ぶ。

 臨床心理士試験の合格通知を受け取ったのは昨年12月。10年越しの夢だった。

 阪神大震災が起きたのは中学1年生の時。兵庫県芦屋市の自宅は全壊し、隣に寝ていた姉の素(もと)さん=当時(15)=が亡くなった。「私が死ねばよかった」。悲嘆に暮れる両親を見て、思った。「自分がしっかりしないと」。元気を装った。

 心理学を勉強していた大学時代、心と体に異変が起こる。小さな音や揺れにも恐怖し、パニックを起こした。精神的な後遺症「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と診断された。

 治療では姉との死別体験を何度も語った。拒絶していた体験を少しずつ受け入れ、罪悪感は消えていった。「生きよう」。そう思えるまで震災から10年以上かかった。

 優しい表情、落ち着いた口調。「なぜか、人から相談されやすい」と照れる。それなら、とカウンセラーを目指した。

 東日本大震災の後、被災地から転校生を迎えた学校の子どもたちのために、日本心理臨床学会のホームページにメッセージを寄せた。「その人が笑っているとき無理してないかな? しんどくないかな?と、見守って」と書いた。

 研究補佐員として働く鳴門教育大には、退職の意向を伝えた。心理士の資格で活動できるのは今年4月から。東北で心のケアに携わる仕事を探そうと決めた。「目に見えない苦しみを東北の人たちも抱えていると思う。寄り添っていきたい」

生家近くの芦屋川を訪れた植松秋さん。PTSDを克服し、臨床心理士の試験を突破した=兵庫県芦屋市松ノ内町で
生家近くの芦屋川を訪れた植松秋さん。PTSDを克服し、臨床心理士の試験を突破した=兵庫県芦屋市松ノ内町で