中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【暮らし】<はたらく>派遣法改正案“骨抜き” 批判

2011/12/16

 「派遣切り」の規制を強める労働者派遣法改正案について、製造業派遣や、仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ登録型派遣を禁止する条項を削除する修正案に、民主、自民、公明3党が合意した。9日閉幕した臨時国会での成立は見送られ、継続審議となったが、労働者や労働組合などからは「労働者の使い捨てを追認する修正だ」と批判の声が上がっている。 (稲田雅文、田辺利奈)

 「頭の中が真っ白になり、どうしようと悩んだ。ホームレスになるしかないかと思った」

 7日、全国の労働組合関係者らが東京都内で開いた「派遣法改正案の骨抜きを許さない緊急集会」。群馬県内の自動車部品工場に派遣され、東日本大震災後の受注減を理由に、4月末での契約の打ち切りを通告された40代の男性は、当時の心境を打ち明けた。

 派遣会社と交渉し、寮から追い出されることはなかったが、今も同じ派遣会社と3カ月単位で契約し、県内の別の事業所で働く。

 欧州発の金融不安もあり、製造業の先行きは不透明だ。来年2月以降の契約はどうなるか分からず、派遣切りされないか不安を抱える日々。「製造業への派遣が一番の問題だ」と力を込めた。

 集会に参加した日本弁護士連合会労働法制委員会事務局長の棗(なつめ)一郎弁護士は「不安定な雇用につながる登録型派遣の禁止が見送られたのも大きな問題。今回の修正案では、根本的な部分が骨抜きにされ、派遣切りにまったく対応できない」と批判する。

 厚生労働省によると、今年六月時点の派遣労働者数は122万人。うち、修正前の法案で規制の対象となったのは、製造業派遣で9万人、登録型派遣で20万人の計29万人に上る=表。修正案が可決されると、これら派遣労働者の4分の1弱が不安定な雇用のまま放置される。

     ◇

 2008年秋のリーマン・ショック後、「雇用の調整弁」として製造業を中心に派遣切りが相次いだ。同年末には、NPOや労働組合が東京・日比谷公園で「年越し派遣村」を実施し、寮を退去させられた人を緊急避難させた。

 09年8月の総選挙では、労働者派遣法の規制強化を求める声が、製造業派遣の禁止をマニフェスト(政権公約)で掲げた民主党を後押し。政権交代が実現する原動力の1つとなった。

 しかし、10年4月に民主、社民、国民新の3党が提出した改正法案は「規制を厳しくしすぎると、雇用が縮小するなどの影響が出かねない」「企業の経営が圧迫される」などと自民、公明両党が反発。ねじれ国会の中で、1年半以上も審議入りできない状態となっていた。

 11月中旬、民主党が大幅譲歩することで3党が歩み寄り、今月7日の衆院厚生労働委員会で可決されたが、参院での審議に見通しが立たず、継続審議となった。

 「働く女性の全国センター」(東京)共同代表の伊藤みどりさんは、成立が見送られたとはいえ状況は厳しいとみており、「民主党には失望した。これ以上経営者側の言う通りになるのは許せない」と、民主党の大幅譲歩の姿勢を批判している。

<改正労働者派遣法の修正案> 製造業派遣と登録型派遣の原則禁止の規定を削除するほか、偽装請負など違法派遣があった場合、派遣先企業が労働者に直接雇用を申し込んだとみなす「みなし雇用制度」の導入を3年後に延期する。

 短期間の派遣の禁止では、期間を2カ月以内から1カ月以内に緩和。事実上、日雇い派遣の禁止のみとなった。

 派遣料金と派遣労働者の賃金との差額の比率(マージン率)など情報公開の義務付けや、均衡待遇(派遣先の同種業務従事者との賃金の均衡)の配慮義務、一定条件の派遣労働者に対する無期雇用への転換促進の努力義務は残った。

派遣法改正案の“骨抜き”に反対する集会。全国各地の労組関係者らが大勢詰め掛けた=衆院第一議員会館会議室で
派遣法改正案の“骨抜き”に反対する集会。全国各地の労組関係者らが大勢詰め掛けた=衆院第一議員会館会議室で