中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【仕事塾/記者が入門】林業会社で間伐 自然と一体になって

2011/12/03

 小学生の間伐体験を取材したとき、木が切られる過程を目の当たりにし、自分は林業の現場を知らないのだと恥ずかしくなった。やってみなくちゃ分からない。気持ちを高ぶらせ、現場に飛び込んだ。
 向かったのは、大台町下真手の区有林。同町の宮川森林組合と第3セクター「フォレストファイターズ」が共同で、間伐事業を進める現場だ。

 最初に感動したのは、ショベルカーのような重機。「プロセッサー」と呼ばれる。原木の端をつかんだと思うと、ずらしながらあっという間に同じ長さに切断していく。枝も同時に切り落とす。これはすごい。

 作業路から視線を落とすと、「群状間伐」で斜面に切り倒されたスギが引き上げられていた。入社3年目の小野翔平さん(26)がスギにワイヤを巻き付ける「玉掛け」するのを手伝った。ワイヤを木の下に回すが、土に接していてなかなか通らない。力を入れると、痛い。ワイヤのつなぎ目が指に当たった。

 巻いたワイヤを「スイングヤーダー」という重機から伸びるワイヤに引っかける。「危ないからこっちに来て」。離れると、スギはバキバキと音を立てながら、ゆっくりと引き上げられた。巨木が移動するのは壮観だが、危険とも隣り合わせ。スイングヤーダーを操作する業務課長の小掠忠さん(40)は「命がけや。機械化で楽になったが、事故を起こさないよう神経を使う」と話す。10年前に機械化される以前は、一本一本チェーンソーで切り、人の手で運んでいたという。先人の苦労に頭が下がる。

 1時間ほど作業して、丹羽宏哉さん(37)の指導の下、1本切らせてもらうことになった。直径30センチほどのスギ。倒す側にくさび形の「受け」を作り、反対側から刃を入れた。思わぬ方向に木が倒れてけがをすることもあると聞き、チェーンソーをぎゅっと握った。スギは予定通りの方向へ。「初めてにしてはなかなかいい」。この道11年の丹羽さんから声を掛けてもらい、ほっとした。

 間伐後に木を運ぶことを考えると、切り倒す方向や空間が限られる。技術と知恵、工夫が求められる。やはり職人技なのだ。斜面の状況や倒木の重なり具合により、1本を引き上げる時間も変わってくる。第2次産業のような効率や生産性の論理を林業に持ち込むのは、少し強引な気がした。

 この日は、斜度25~30度の斜面を登ったり下ったり。体力は必須だ。林業は負のイメージで語られることが多いが、現場は明るい。入社2年目の小野量平さん(26)は、魅力をこう説明する。「自然を感じながら仕事できることかな」

 取材した現場は来年度、広葉樹の苗木を植える計画だ。どんな森ができるのだろう。その礎を作っている人たちは、外から見えないが、尊い。(戸川祐馬)

 メモ 大台町は、面積の93%を森林が占める。町内には、県の認定林業事業体が7社あり、約100人が林業に従事している(製材業を含む)。高齢化が進んでいたが、近年は20~30代の就労者も増えている。重機などの免許は従事してから取得するケースが多い。投資した額の結果が出るまで長期間を要することが、他の第1次産業と異なる。


(メモ)
  群状間伐  一定の基準に基づいて、小規模に区域を設定し、まとめて伐採する方法。取材した現場は、地形や土質、日当たりなどの自然条件と、法律や市場ニーズなどの社会条件から、適した森林のあり方を検討し、間伐方法を選択していた。

チェーンソーでスギを切り倒す筆者=大台町下真手で
チェーンソーでスギを切り倒す筆者=大台町下真手で