中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【暮らし】<はたらく>震災を理由に賃金未払い 元派遣の女性 悲痛な訴え

2011/12/02

 東日本大震災後に事業を停止し、約1000人に約1億円の賃金を支払っていない東京都の派遣会社と契約していた愛知県の30代女性が「賃金が回収できない」と、悲痛な訴えを本紙生活部に寄せた。企業の倒産などで賃金や退職金が未払いになった場合、国が立て替えて支払う制度があるが、このケースでは適用できていない。 (稲田雅文)

 女性が派遣会社と契約し、愛知県内の事業所で働き始めたのは昨年3月。賃金はきちんと振り込まれていたが、震災後の3月中旬、支払いが滞った。会社側から「震災と大手銀行のシステムが停止した影響」との説明を受け、「仕事があるだけまし」と深刻に思っていなかった。

 ところが、しばらくしても賃金は支払われなかった。派遣会社の名古屋支社の担当者に督促を繰り返しても支払われない。4月末になって、派遣先の事業所と派遣契約の更新もしていないことが発覚。派遣会社を退職し、派遣先の事業所との直接契約に切り替えた。

 未払いの賃金は75万円余。5月に入り、名古屋支社を管轄する労働基準監督署に相談、担当者の勧めで督促状を内容証明郵便で送付した。それでも応じず、6月中旬、派遣会社が労働基準法に違反していることを労基署長に申告した。

 労働者としてできる手続きはしたが、未払いの賃金はどこからも払われなかった。本社や支社の電話もつながらなくなり、派遣会社の実体がなくなったようだった。

 対処のしようがなく、インターネットの掲示板で情報を得る日々。「派遣労働者同士の横のつながりはなく、連携もできない。労働の対価なので、どこかが支払ってくれると思っていたが、解決の糸口すら見つからない」

 震災を機に問題が起こった人らでつくる個人加盟の労働組合「震災ユニオン」(東京都渋谷区)が、この派遣会社と未払い賃金の支払いを求める団体交渉をしていると知り、加入した。

 この派遣会社は、クレジットカードやケーブルテレビなどのPRキャンペーンを中心に労働者を派遣。女性への説明で支社の担当者は「1、2月ごろから正社員への賃金の支払いが遅延していた」と話しており、資金繰りの悪化と震災の因果関係は不明だ。

 震災ユニオン書記長の関根秀一郎さんによると、団体交渉の中で派遣会社は、本社のほか札幌や仙台、新潟、静岡、大阪にもある事業所で契約した約1000人の派遣労働者に、総額約1億円の賃金を支払っていないことを認めたという。6月に第1次請求に参加した13人の賃金450万円は支払われ、現在40人が参加した第2次請求の交渉中だ。

 支払い能力が低下しているため、関根さんは「国の『未払い賃金立て替え払い制度』を活用するしか解決の方法がない」とも考えた。同制度は、倒産した企業で賃金が未払いで退職した場合、未払い賃金の八割を国が立て替え払いする。

 しかし、実体がなくても法律上の倒産はしていないため、制度が適用できない。中小企業については、事実上の倒産の場合も適用できるが、この派遣会社の場合、資本金などが中小企業の基準に当てはまらないという。

 この派遣会社に対し債権者の申し立てによる「第3者破産」の手続きをして、立て替え払い制度の適用を受けようとした被害者もいるが、手続きに必要な予納金数100万円が壁になり実現していない。

 この派遣会社は取材に「資金繰りを金融機関と調整中に震災があり、不払いを起こしてしまった。震災がなければ事業を続けられた。派遣労働者に迷惑を掛け申し訳ない」とコメント。関根さんは「震災を理由にすれば何でもまかり通るわけではない」と批判、労基署とも交渉し労働者の救済を求めている。

女性への賃金の未払いを証明する書類。派遣会社からは8月中旬にメールが届いて以降、連絡がない
女性への賃金の未払いを証明する書類。派遣会社からは8月中旬にメールが届いて以降、連絡がない