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【愛知】「社会的企業」広がる輪

2011/12/01

 利益追求でなく、社会貢献を目的とするNPOなど「社会的企業」を設立する動きが各地で進んでいる。社会貢献の対象は環境や貧困、福祉など幅広く、国も地域社会雇用創造事業の一環として金銭面で支援する。そんな社会的企業の中から、高校生の食生活改善や東日本大震災の被災地での雇用創出の取り組みを紹介する。

◆給食ない高校生に弁当配達を
清水さん(愛西)営業開始

 給食のない高校生にも、栄養バランスの取れた温かい弁当を食べてほしい-。愛西市の清水元樹さん(27)は6月、NPO法人「Mother Kitchen」を設立した。
 地元出身。中学まで給食はあったが、高校にはなかった。仕事が忙しい母親が弁当を作れない時、昼食は菓子パンだった。「栄養が偏っているだろうな」と感じていた。

 大学卒業後、東京の商社に勤務。「自分にしかできないことをやりたい」と2年ほどで退職し、帰郷した。

 ある日、地元の喫茶店で、隣の席にいた高校生の母親らが「弁当作りが大変」「学校は菓子パンやおにぎりしか売ってない」と愚痴をこぼしていた。高校時代の記憶がよみがえり「高校生に弁当を届ける仕事をしたい」と思い立った。

 愛西市内で見つけた空き工場を改装して調理場に。ハローワークに求人を出し、地元の主婦や障害者らを採用した。レストランで修業も積んだ。

 11月上旬に営業を開始。栄養士の資格を持つ主婦が日替わりで献立を考える。ご飯とおかず6品で1個400円。「野菜たっぷりで、栄養バランスもばっちり」(清水さん)。現在は近くの企業など15カ所に配達し、実績づくりの真っ最中だ。

 近隣の高校も回ったが、多くは「実績がない」などと厳しい反応。ただ、興味を示してくれるところもあった。早く高校への配達を実現させ「高校ランチ革命」を起こそうと意気込む。 (稲垣時太郎)

◆「ありがとう」のワカメ販売へ
仮設住宅で女性たち

 宮城県南三陸町では、仮設住宅で暮らす女性たちが自らの手で働く場所をつくろうと起業。年明けからワカメ販売に乗り出す。
 11月上旬、仙台市で開かれた起業プランの審査会。審査を通れば、国からの支援金が支給される。「金もうけが目的じゃない。今、働ける喜びが必要なんです」。南三陸町の下山うめよさん(57)は、被災地に女性の働く場がなく、仮設住宅に閉じこもっている実態を訴えた。

 「みらい南三陸」と銘打った下山さんのプランは、行政だけに頼らず、被災者自身が自ら働く場をつくり、点在する仮設住宅に暮らす住民のつながりを取り戻すのが狙いだ。

 具体策の一つが塩漬けしたワカメの販売だった。海辺で暮らした住民にとってなじみ深く、商品化の手間も少ない。審査は通り、支援金170万円を受け取れることになった。

 海産物の仕入れや袋詰めする機械の準備を進め、年明けに生産を始める。仮設住宅の女性たちを対象に、働く意欲のある人を募るという。震災後に知り合ったボランティアのつてで、販路は県外に求める考えだ。

 下山さん自身、13年間暮らした自宅を津波にさらわれた。「失ったものはあまりに大きい。けれども、全国から駆けつけてくれたボランティアと出会えて、得たものも大きい」と話す。ワカメを詰める袋には、それぞれ自筆のメッセージを添えるつもりだ。書き込む言葉はもう決めている。「ありがとう」と。 (石川修巳)

◆名古屋のNPO企業計画を審査
 清水さんも、下山さんも、内閣府から委託された「市民フォーラム21・NPOセンター」(代表理事・後房雄名古屋大教授、名古屋市北区)が計画を審査し、書類や面談、提案説明の結果、支援金を支給された。昨秋以来、これまで延べ70人に総額1億円弱を支給している。
 国の「地域社会雇用創造事業」は2011年度まで。最後となる募集は6日が締め切り。最大200万円の支援金が出る。(問)NPOセンター=電052(919)0200

弁当の盛り付けをする清水さん(右)=愛西市甘村井町で
弁当の盛り付けをする清水さん(右)=愛西市甘村井町で
商品に付ける予定のマークを前に、今後の事業展開に期待を寄せる下山さん(左)ら=宮城県南三陸町で(斉藤直純撮影)
商品に付ける予定のマークを前に、今後の事業展開に期待を寄せる下山さん(左)ら=宮城県南三陸町で(斉藤直純撮影)