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【医療】地域の薬剤師 医師と連携し服薬管理

2011/11/22

 4年制から6年制に移行した薬学部で学んだ学生が来春、卒業するのを前に、薬剤師の活用が注目されている。薬局の新たな機能の開発を目指し、愛知学院大(名古屋市)と岐阜県土岐市の診療所、薬局が連携して服薬管理のシステムを試行したところ、治療効果が良好に。薬剤師の活躍の広がりが期待される。 (境田未緒)

◇薬学部6年制 来春初の卒業生

[システム試行し治療に効果]
 研究に取り組んだのは、愛知学院大薬学部の山村恵子教授らと、土岐市の土岐内科クリニック、ささゆり薬局土岐店。脳梗塞予防のため、血液を固まりにくくする薬「ワルファリン」を服用する心房細動の患者を対象に試行した。
 不整脈の一種である心房細動は高齢者に多く、血の塊(血栓)ができやすくなる。血栓が脳に移動して動脈をふさぎ、脳梗塞を引き起こす危険があるため、血液凝固阻止剤の「ワルファリン」が処方される。

 処方の分量は、血液の固まり具合を調べる検査(PT-INR測定)を定期的に実施して調整する。ただ、分析を外注する診療所が多く、検査結果はその日の処方に反映されない。測定値が分かった後、患者に電話連絡して、服薬量を変更する場合もあるという。

 構築したシステムでは、受診前に患者が薬局を訪れ、自分の指に針を刺して少量の血液を採取し、簡易迅速測定機で自己測定する。薬剤師は服薬状況や体調変化を聞き、測定値とともに連絡票に記載。医師は、患者が持参した連絡票を見て診察し、ワルファリンを処方する。患者は処方せんと連絡票の返信を携えて薬局を再訪し、調剤と服薬指導を受ける。

       ◇       

 研究に同意した60代の男性患者が、診察前にささゆり薬局を訪れたのは4月。自己測定でPT-INRが目標値よりも低かったため、薬剤師の倉田寛行さんが詳しく尋ねたところ、男性は「趣味の釣りに行く時、けがをして血が止まらなくなるのが怖いので、薬を飲まないことがある」と打ち明けた。

 男性は1年前から月1回、心房細動で診察と薬の処方を受けていた。ワルファリンを飲んでいても、傷口を圧迫すれば血は止まり、服薬を中断するほうが命に関わる。倉田さんは「数値がその場ではっきり出たので、服薬状況をしっかり聞けた」と振り返る。

 倉田さんは、すぐに土岐内科クリニック医師の長谷川嘉哉さんに連絡。薬の量は変えないまま、きちんと服薬した翌月は、目標値になった。長谷川さんは「そんな理由で薬を飲まないなんて、思いもしなかった」と苦笑いする。

 医師の前で「いい患者」を演じる人は多い。長谷川さんは「その場で測定値を処方に反映できる利点もあるが、いろいろな職種から患者さんをみるのは、とても大切なこと」と指摘。「ほかの病気でも、在宅患者の服薬指導で薬剤師が活躍する場があるのでは。医療者間の信頼やコミュニケーションが重要になっていく」と話す。

 服薬管理システムを考えた山村教授は、「六年制教育で臨床に強い薬剤師を養成しており、受け入れる薬局の機能を発展させる必要がある」と語る。心房細動の患者は全国で100万人以上と推測されており、今後、ほかの薬局でも臨床研究を進めていきたいとしている。


◇在宅医療へのかかわり

 厚生労働科学研究「薬剤師需給動向の予測に関する研究」の2010年度報告書によると、薬剤師の総数は08年で26万7700人余と、20年前に比べて1.9倍に増加。特に薬局に従事する薬剤師が増えており、全薬剤師の半数以上を占める。
 06年度に薬学教育が6年制に移行した前後、薬科大(薬学部)の入学定員が私立大で急増。薬剤師の供給過多が言われた。研究分担者の1人、名城大薬学部の長谷川洋一教授は「定員の見直しなどで、懸念されたほど供給過多にはならないが、しばらくは増える。都市部に集中する傾向がある」と指摘する。

 6年制教育では、薬局や病院での実務実習が多く取り入れられている。長谷川教授は「医療の高度化や高齢化で薬剤師に求められるものが変わってきている。病棟への常駐や在宅医療で高齢者ケアに関わっていく必要があり、6年制の卒業生には自分たちで変えていく意識も持ってほしい」と話している。

簡易迅速測定機を手にする倉田寛行さん=岐阜県土岐市のささゆり薬局土岐店で
簡易迅速測定機を手にする倉田寛行さん=岐阜県土岐市のささゆり薬局土岐店で