2011/11/04
―――百貨店販売専門職 水本博子さん(38)
顧客を持ち高い目標額達成
スケジュール帳を開くと、お得意さまとの約束がびっしり。「求められる売り上げを実現するには、自分の顧客をつくり、長く大切にすることが大事」
水本博子さんは、東京の小田急百貨店新宿店の宝飾・時計売り場の販売専門職「セールススペシャリスト」として、顧客への販売を担う。
「人と話すのが大好き」で百貨店を志した。学生時代に婦人服専門店でアルバイトをし、販売に向いているという実感もあった。ただ、宝飾売り場は希望外。1千万円超の値札に、当初は「桁を読むのにも戸惑った」。
励みになったのはベテラン男性店員の姿。ソファで顧客とゆったり商談を進めていた。「自分もいつか優雅に接客してみたい」との思いを胸に刻んだ。
日々奮闘するうち、道が開けた。1千万円相当の地金が売れたのだ。買ったのは、あまり身なりのよくない高齢男性。最初は購入するかどうかわからなかったが、相場などを熱心に説明するうちに、「君から買う」。相手と呼吸が合い、接客の楽しさを覚えた。
自分磨きも欠かさなかった。「かじっているだけでも会話が違う」と、乗馬に華道、茶道、陶芸を習った。釣り好きな顧客がいれば、知人に頼んで遊漁船に乗った。フランスの高級宝石ブランドのショップ長を任されたときは、休暇に渡仏して本店を訪ね、本場の接客を体感した。
2007年、販売専門職となった。設定された販売目標額をクリアした店員だけが認められる要職だ。お得意さまのほか、外商から紹介された顧客の自宅を訪問したり、催事などで接客にあたる。
花形ともいえるが、他の人の4、5倍の売り上げが求められる。「数字だけを追い掛けると行き詰まる。商売の前に人と人。相手の心にどれだけ入れるかです」
10年来の顧客が家庭の事情で数年間何も購入しなかった時も、定期的に電話を入れ、次につなげた。売り場の杉沢昌樹統括マネジャー(55)は「親身になって話を聞けるのは才能。経験を積んでもピュアな気持ちを保っている」と評価する。
「初めて会ったお客さまが2回目に来てくれたときが、何よりもうれしい」。いちげんの客が、また顧客になる。
文・杉戸祐子
写真・市川和宏
【百貨店員】
大学などを卒業後、入社する。契約社員から正社員に登用されるケースも。販売職のほか、商品仕入れを担うバイヤー、法人や個人の顧客対象の外商などの担当がある。
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