東日本大震災の復旧事業では建物の解体やがれき処理などで作業員が死傷する労働災害が多発している。今後の復興では工事や資材搬入などの情報を公開して、職場の安全をさらに高めてほしい。

　大震災の被害は甚大だ。死者・行方不明者は２万人近くに達し、がれき処理量は２千３００万トンを超える。政府はようやく総額１２兆円強の本年度第３次補正予算案を閣議決定したが、復興費用はもっと増えよう。

　復旧・復興が進む中で作業員が高所から墜落・転落したり、建物の解体作業中にコンクリートの破片が飛んできて大けがをするなどの事故が相次いでいる。

　厚生労働省によると３月１１日から９月末までに報告された労働災害は３４４人で、うち死者は１６人。事故とならない「ヒヤリ・ハット」を含めれば現場の危険度はかなり高いのが実情だ。

　政府はたびたび通達を出して作業現場での足場確保や解体時の石綿粉じん対策の徹底などを呼び掛けてきた。だが復興が本格化すれば作業員の安全管理には従来以上に注意を払う必要がある。

　事故防止には工事関係者による緊密な情報交換が不可欠だ。そのためには現場ごとに「協議会」を設置して工事情報を共有し、作業日程の調整や資材搬入経路の統一、共同安全パトロールなどを行うことだ。民間で話が進まなければ官が音頭を取ってもいい。

　通常の労災防止に加えて、政府が緊急に取り組まなければならないのが放射能汚染対策だ。

　東京電力福島第一原子力発電所の事故では延べ１万９千人が緊急作業に従事している。現在の被ばく線量の上限は２５０ミリシーベルト。厚労省は来月から通常の１００ミリシーベルトに引き下げる方針だが、対象は新規作業員に限定するという。労働者の安全を守る立場の役所なら対象を広げるべきだろう。

　さらに自治体や地域住民、個人が行う放射性物質の除染作業での被ばく対策も緊急課題だ。国民の生命と安全をしっかりと守ることこそ政府の責任である。

　労災発生件数は毎年１０万件を超える。昨年６月の新成長戦略の工程表は「２０２０年までに３０％削減」を明記した。

　達成するには企業の取り組みが鍵を握る。工事現場や個々の職場で安全衛生体制を厳しくチェックする。想定以上の大災害や大事故は必ず起こる。それに遭遇しても揺るがない「安全文化」を、従業員とともに構築すべきである。