2011/10/21
認可保育所への入所を希望しながら入所できない「待機児童」に、行政の対策が追いつかない。景気低迷で働きに出る女性が増え、入所希望者が激増したためで、最も多い名古屋市などは対策に本腰を入れる。その一方、急激な定員増加が保育の質の低下をもたらす懸念も出ている。 (稲熊美樹)
「来年4月になっても入所できなかったら、辞めるしかない」。夫婦ともフルタイムで働き、育児休業を取得中の名古屋市の女性(30)の気は焦るばかりだ。出産後に実家近くに引っ越し、職場復帰に備えたが、両親にも仕事がある。長女が1歳になる直前の12月末で育休は終わるが、近所の保育所に相談すると満員で、同じ区内に待機児童がいることが分かった。
職場に相談すると、専門職ということもあり来年3月末まで育休を延長してもらえた。退職しなければならない場合を考えると、乳児を抱えて職を探せるか不安になる。
名古屋市の待機児童は、今年4月時点で全国最多の1275人。リーマン・ショック前の2008年度は428人。昨年度は598人に増え、さらにこの1年で倍増した。需要の増加の予測が甘く、対策が後手に回っていることが要因。年度途中でもどんどん入所希望者は増える。昨年10月の待機児童は1766人で、4月に比べ約3倍に。担当者は「4月時点の数字で対策を取っていた」と見通しの甘さを認める。
予算計上から新設保育所の開設までには約1年かかる。市は保育所の建物を確保するため、賃貸物件を改修して開設する運営者を募集。保育士を確保しようと、保育士養成の大学などへ働き掛けているほか、出産や育児で現場を離れた保育士らに現場へ復帰してもらおうと研修も始める。
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昨年まで3年連続で待機児童数が最多だった横浜市。今年4月の待機児童は971人で依然全国2位だが、昨年に比べ581人減らすなど、緊急で取り組み始めた効果が出始めている。
同市は、09年10月に「保育所待機児童解消プロジェクト」を発足。既存の保育所で定員を超える園児を受け入れたり、市が候補地を公募して運営者に紹介し、保育所を新設したりと知恵を絞る。
待機児童数は市内でもばらつきがあり、定員割れする保育所があることにも着目した。駅近くに待機児童の多い0~2歳児のみの保育所を設置。ここを「送迎保育ステーション」にも位置付け、3歳以上は交通の便が悪く定員に余裕がある保育所にバスで送迎する仕組みをつくった。保護者は駅近くのステーションまで送迎すればよい。3歳以上の5人が利用する。
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急増する定員や緩和される保育所の設置基準に不安の声も。これまで国が全国統一で決めていた面積や保育士の配置基準を、12年度から一部の都道府県が決められるようになった。待機児童を減らすため、一人当たりの基準面積を狭くすることもできる。しかし、厚生労働省の委託調査では、現在の面積最低基準でも狭すぎとの指摘もあり、「詰め込み」への懸念が高まる。
日本保育学会会長の秋田喜代美・東京大大学院教育学研究科教授は「待機児童を減らすことは喫緊の課題だが、量的拡大だけではなく、保育の質の向上が求められている」と指摘。「子どもたちの安全が保障できるかどうかを主眼に政策を考えるべきだ」と話している。
<待機児童数> 今年4月1日時点、全国で2万5556人おり、前年同期比719人減と4年ぶりに減少した。保育所の定員は1990年以降で最大の伸びだったが、需要に追いついていない。名古屋市、横浜市に次いで札幌市865人、川崎市851人、福岡市727人と都市部で目立つ。特に0~2歳の入所希望者が増え、待機児童の82.6%を占める。毎年、10月1日時点の待機児童数はさらに増え、昨年は全国で4万8356人だった。
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