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【暮らし】天職ですか/パティシエのような手つきで

2011/10/21

―――食品サンプル職人 畑佐伸一郎さん(46)
新商品の表現に苦心

 食品サンプルメーカー「岩崎」の工場(横浜市鶴見区)。社員の畑佐伸一郎さんは、まるでパティシエが生クリームを搾り出すような手つきで、ケーキやクレープに飾りつけをしていく。
 「この生クリームはビニル樹脂に増粘剤を混ぜたもの。食べられませんよ」と笑う。

 食品サンプル製作は、飲食店などから依頼された“本物”を工場に持ってくるところから始まる。実物の写真を撮り、細かい情報を伝票に書き込む。

 作り方は「型を取る、取らない」で大きく2つに分かれる。時間がたっても形が崩れにくい食品は、型を取ることが多い。液状のシリコンを実物にかけ、固まったら中身を取り出し、型が完成。液状のビニル樹脂を型に流し入れ、オーブンで加熱すれば固まり、部品が出来上がる。

 型を取れないのは、形が変わりやすいケーキなどデザート系に多い。畑佐さんが主に担当する部門だ。ウレタン素材に加工を施し、本物のケーキのスポンジの質感にするなど、一から作らなければならない。「最初に実物を見た時のイメージを頭の中に残しておくことが大事」

 色付けも職人の腕の見せどころ。肉の色、マグロの色…基本の色はビニル樹脂自体に付けるが、その上にスプレーや細い筆で彩色し、本物と見まがうサンプルに仕上げる。

 岐阜県八幡町(現郡上市)出身。子どもの頃からモノづくりが好きだった。高校時代、「将来は公務員」と漠然と思い描いていたが、試験に失敗。「手先が器用だから向いているかも」と父親に勧められ、父親の知人の紹介で現在の会社に就職した。創業者・岩崎滝三氏の故郷も郡上八幡で、縁も感じた。

 入社以来28年、サンプルを作り続けてきたが、当時はろうで作るのが主流。型もシリコンではなく、寒天で作っていた。ろうは熱に弱く、折れやすく、今では大半がビニル樹脂製。畑佐さんは、ろうの時代を知る数少ない職人の一人だ。

 新しい商品が続々と登場する。「毎回『どう作る?』と難問を出されているよう」。緊張の連続の現場だ。「製作ノウハウは、ある程度の年月で身に付くけれど、おいしさの表現は一生勉強です」

文・宮本直子
写真・久野 功

【食品サンプル職人】
食品サンプルメーカーに就職し、入社後に技術を磨くのが一般的。必須の資格はない。畑佐さんが勤務する岩崎(本社・東京都大田区)では、美術系の短大や専門学校に求人を出しているという。

樹脂製の“生クリーム”で飾り付けをする畑佐伸一郎さん=横浜市鶴見区で
樹脂製の“生クリーム”で飾り付けをする畑佐伸一郎さん=横浜市鶴見区で