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【暮らし】<はたらく>「担い手」育成 厳格な農学校 無料の全寮制、タキイ種苗が運営

2011/10/14

 授業料も寮費も無料だが、実習は過酷で規律も厳しい-。滋賀県湖南市にある農業学校が注目されている。後継者不足が続く一方、地に足を着け、労働実感の得られる仕事として関心を抱く人も増えている農業。土と向き合い、仲間と過ごす日々の中で、日本の農業を担う若者たちが育っていく。 (境田未緒)

 かっぱ姿の生徒らが雨の中、走ってハウスに向かう。タキイ種苗(京都市)が運営する「タキイ研究農場付属園芸専門学校」が立つ農場の敷地は約70ヘクタール、東京ドーム15個分の広さ。畑に移動するときは、いつも駆け足だ。

 学校は1947年、戦後の食糧難の中で農業の担い手を育てようと、当時は京都にあった研究農場に併設された。全寮制で18~24歳の男子限定。これまで3040人が卒業し、今年は本科生(1年生)52人と専攻科生(2年生)17人が学ぶ。

 1時期、36人まで減少した志願者は、この4年で急増。今春は100人に上った。農家の後継者以外に、サラリーマン家庭の大卒者も増えている。

 授業は実習が中心。本科生は年間1500時間の実習と350時間の講義がある。ナスやキュウリといった果菜類、大根やニンジンなどの根菜類、葉菜類のキャベツや白菜、花卉(かき)-。実習はグループに分かれ、ハウスや露地などで栽培する。機械を使わず、夏の炎天下での畝づくりも人力作業。福嶋雅明校長は「自分の足で畑を歩き、土を見極める経験が大切。機械しか知らないのと、手作業を知った上で機械を使うのとでは、大きく違う」と語る。

 農場は、新しい品種を研究開発する育種の現場。生徒は社員と共に栽培を担い、農場側は「農業の最新知識や技術を惜しみなく与える」(福嶋校長)。5月の連休明けのころには、ほとんどの生徒が体重を落とし、引き締まった体になる。

 寮生活も特徴の一つ。本科生は相部屋で、食事や消灯の時間が決められ、携帯電話の使用も制限される。整理整頓は必須。福嶋校長は「農業の勉強以前の基本を教えているだけ。農機具庫がきれいな農家は収益を上げている」と指摘する。

 最初は苦痛に感じる生徒も変わっていく。専攻科で学ぶ北海道出身の関尾昴人(たかと)さん(19)は「先生の目を盗んで何かやったら、仲間の誰かが迷惑する。社会に出たら何でも許されるわけじゃない」と話す。

 北海道出身で、父親の勧めで入ったという専攻科の山本泰己(だいき)さん(20)は最初、農業に興味はなく、寮生活もつらかった。だが「作物の成長がうれしくて面白い」と農業法人への就職を決めた。

 同級生の香川県出身、佐藤和哉さん(20)は「最初は苦痛だったけど、一生の友達ができた」と語る。福嶋校長は「全国に友人ができることも、産地情報のやりとりなどで大きな武器になる」と話す。