2011/09/15
厚生労働省は、パートなどの短時間労働者も、厚生年金や、企業の健康保険組合などの被用者保険に加入させる方向で検討を始めた。見直しに伴い、保険料負担なしで年金加入や健康保険の利用ができるサラリーマン世帯の専業主婦に保険料負担が生じる可能性もあり、家計への影響が大きい。ポイントをまとめた。 (田辺利奈、稲田雅文)
「(パートなど)非正規労働者の多くが(厚生年金でなく)国民年金に加入し、制度にひずみが生じている」
厚労相の諮問機関、社会保障審議会の「短時間労働者への社会保険適用等に関する特別部会」が1日に開いた初会合で、厚労省は見直しの狙いをこう説明した。
非正規労働者も厚生年金などに入ってもらい、将来、無年金や低年金になる人を減らすとともに、国民健康保険(国保)から企業健保など被用者保険に移ってもらうのが目指す改革の柱だ。
厚生年金や企業健保の加入者を増やしたい厚労省は審議会で、正規労働者の労働時間の4分の3程度の「週30時間」以上となっている現行の加入要件を、雇用保険の加入条件並みの「週20時間」に引き下げる案を示した。この案だと、新たに400万人が国民年金から厚生年金への移行対象になるとしている。
サラリーマン世帯でパートをして生計を助けている主婦が、国民年金や国保の保険料などを支払わなくても済む「年収130万円」の基準も引き下げの方向で変更される見通しだ。
神奈川県のパート女性(53)は時給930円で週5日、1日5時間15分働いている。
現状では、年収が130円以上になると、国民年金や国保などの保険料を負担しなくてはならないため=表、支払いを免れるぎりぎりのラインを計算し、労働時間を減らしている。
夫は定年退職したばかり。嘱託社員として同じ会社で働き、収入はあるものの、大学生の息子への仕送りもあり、家計は厳しい。「制度が変わったら、家計のために保険料を払ってでも働くしかない」。女性はその場合、これまでとは逆に、労働時間を増やさなければ手取り収入が減ると考えている。ただ、厚生年金に加入すれば、将来、女性自身が受け取る年金額は増える。
厚労省は、年内に検討結果をまとめ、来年度以降に国会に法案を提出したい考え。厚生年金や健康保険などの保険料の半分を負担する企業からは、適用範囲の拡大に伴う負担増に反発が強まりそうだ。審議会では、企業側の委員から「中小企業の理解を得ることが重要」との声が上がった。
◆103万、130万円に年収抑えてきたが
愛知県の団体でパートとして働く女性(40)は夫の所得税の配偶者控除を意識し、月収8万円(年収96万円)に抑えて働く。夫からは「所得税の負担が増えるくらいなら、仕事を辞めてほしい」と言われている。
この女性のように、年収を103万円までにとどめている主婦は多い。103万円を超えると、自分の収入に所得税が課税され、同時に、夫の所得税の配偶者控除が「配偶者特別控除」に切り替わり=表、控除額が段階的に減るからだ。
主婦がパートなどで働いても、夫がサラリーマンの世帯で、妻の年収が130円未満なら、国民年金の第3号被保険者と、夫が加入する健保組合などの被扶養者になれる。自分で保険料を払わなくても、年金加入でき、健康保険を使えるとして、この水準で収入を抑える主婦も少なくない。
こうした現行制度には「女性の労働を制限している」「サラリーマンの妻を優遇している」など厳しい指摘がある。
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