2011/09/09
障害児を育てる母親から「保育所への入所を断られ、職場復帰できない」という切実な声が本紙生活部に寄せられた。子育てをしながら働くためには、保育サービスが不可欠。しかし、障害児保育をどう提供するかは、市区町村の裁量に委ねられている。「受け入れは難しい」と断られ、就業をあきらめるケースも多いのが現状だ。 (田辺利奈、稲熊美樹)
ダウン症の女児(2つ)を育てる愛知県岡崎市の公務員女性(40)は、育児休業明けから仕事に復帰するか悩んでいる。娘が2歳7カ月になる来年4月に職場復帰を予定。認可保育所への入所を市の担当者に相談すると、「集団保育になじむことのできる3歳以上の児童」との内規を示され、入所を断わられた。
女性は「将来自立が難しい娘のため、少しでも働いてお金を残したい。障害の程度にかかわらず、一律の門前払いはおかしい」と詰め寄ったが、担当者は、3歳未満の空きがない上、障害児の対応の大変さを理由に首を縦に振らなかったという。退職しなくて済むよう認可外保育所の利用などを模索している。
市は取材に「事故のない態勢を維持するため、入所に制限を設けるのは仕方ない」と説明するが、女性は「娘は走り回ることもなく、おとなしい。健常児に比べて手がかからないくらいなのに」と嘆く。
同市は、3歳以上の場合は障害児も受け入れている。障害児3人に対し保育士1人を追加配置しており、重度の子どもの場合はさらに一人配置することもある。人員配置に伴う財政負担の増加も、入所を認めない背景としてあるようだ。
同県田原市に住む元看護師の女性(30)も、ダウン症の男児(1つ)の保育所入所を市に相談したところ、手がかかることを理由に断られた。市のホームページでも「健常児と集団生活が可能な3歳以上児」を入所の条件に掲げている。
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厚生労働省の調査によると、全国で障害児保育をしている保育所は、2009年度で認可保育所全体の約3割に当たる7千376カ所。認可保育所に通う障害児は年々増え、1994年度に比べて09年度は約1・7倍、1万1千103人が通う=グラフ。
ただ、この調査では園児の年齢区分をせず、3歳未満の障害児を受け入れているかは、同省も把握していない。保育サービスの提供は市区町村が責任を負い、障害児の保育は裁量で左右されるからだ。
愛知県西尾市や豊田市などは、年齢による制限をしていない。豊田市の担当者は「3歳未満では、発達がゆっくりの健常児と障害児との差は分かりにくく、線引きに意味はない」とする。
東京都大田区でも、医療ケアが必要ない場合は、ゼロ歳児から障害児を受け入れており、認可保育所80カ所で150人を預かっている。「ダウン症の場合は、ごく当たり前に受け入れています」と担当者は話す。
市の担当者と粘り強く交渉し、入所にこぎ着けた事例も。「原則3歳以上」の規定がある同県豊橋市で、六年前に生後11カ月の男児を預け、働き続けられた会社員女性(41)は「あきらめないことも大切」と語る。
国が13年度の導入を目指す「こども園(仮称)」に関する内閣府の検討会議でも課題に取り上げられており、障害児を受け入れる保育所への財政支援も検討されている。
障害児保育に詳しい桜美林大の茂木俊彦教授は「子どもには発達の権利、親にも働き続け社会参加する権利がある。障害児を例外扱いしてはいけない。行政は最大限対応し、障害児の親が仕事を辞めざるを得ない状況は、改善しなければ」と指摘する。
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