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【暮らし】<はたらく>失業者、入居費用も給付を 「第2の安全網」拡充望む声

2011/09/01

 失業とともに住まいも失った人たちに、6カ月間の家賃を給付する「住宅手当」。3年前のリーマン・ショックの教訓から、政府の「第2のセーフティーネット(安全網)」として、期限付きで導入された。原則、入居費などの貸し付けとセットになっており、利用者の多くが借金を抱えるため、改善と恒久化を求める声が上がっている。 (稲田雅文)

 東京都の40代男性は、住宅入居費などの借金を、受給する生活保護費の中から毎月5010円返済している。2008年10月に派遣切りで失業し、寮を追い出された。サウナで寝泊まりしながら日雇い労働でしのいだが、仕事が見つからず屋外で寝たこともある。

 原則6カ月間給付され、返済の必要のない住宅手当と、入居費用や一時生活再建費などを借りられる「総合支援資金貸付」の存在を知ったのは09年10月。

 社会福祉協議会で申請し、住宅手当を受けるとともに、入居費40万円、3カ月分の生活費や家財道具をそろえる資金など計80万円余りを借りた。

 ハローワークで職を探したが、仕事は見つからない。職業訓練を受けようか検討するうちに持病が悪化。仕事を探せなくなり、生活保護を申請した。「利息も合わせ、90万円余りの負債を抱えることになり、苦しい」と男性は語る。

     ◇

 「住宅手当の受給要件を大幅緩和し、入居費用の給付などで“住宅セーフティーネット”を創設すべきだ」

 貧困問題に取り組む弁護士や労組関係者らでつくる「第2のセーフティーネットの拡充を求める連絡会議」などは、7月に都内で開いた集会で、こんな宣言を採択した。

 住宅手当は、低所得世帯で就労意欲がある人に対し、家賃を原則6カ月(最大9カ月)給付する。預貯金ゼロが原則の生活保護と違い、100万円(単身者は50万円)以下なら、東京23区の単身者の場合、月約5万4千円が支給される。

 これまで持ち家の推進に軸足を置いてきた国の住宅政策の中で、生活保護制度以外で初めて家賃を給付する政策として「画期的」との声が上がる。

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 厚生労働省によると、09年10月から今年6月までに、6万4613人が住宅手当を利用。うち31・7%の人がアルバイトなど短期の雇用を除く正社員などに就けた。

 しかし、敷金、礼金など入居時に必要な初期費用は貸し付けのため、連絡会議は低所得者に借金をさせる仕組みを問題視する。

 ハローワーク職員らも加入する全労働省労働組合(全労働)によると、求職者が住所不定の場合、窓口の職員はまず、住宅の確保を考える。「借金をさせざるを得ない現状では、住宅手当の受給を勧めるのをためらう場合もある。入居費用も給付であれば勧めやすく、利用が進むのではないか」と話す。

 また、緊急対策のため、住宅手当はこのままでは12年3月に打ち切られる。連絡会議は第2のセーフティーネットの柱の一つとして、恒久化や要件の緩和を国に求めている。

 貧困問題に取り組むNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(東京都)の稲葉剛理事長は「アパートに入る際の保証人が見つからない人がたくさんいる。審査が通っても家主の承諾が得られず入居できない人が出てきている」と指摘、公的な家賃保証制度の創設も求めている。

<第2のセーフティーネット> 雇用保険を第1、生活保護を最後のセーフティーネットと位置付け、その間に設けた安全網。リーマン・ショック後の雇用危機では、雇用保険の受給資格がなく求職中の生活費に困ったり、失業と同時に住まいを失ったりした人が続出した。政府は雇用保険から漏れた人を主な対象に、生活保護を受給しなくても就職活動ができるよう、住宅手当や生活費を支給する「臨時特例つなぎ資金貸付」など、七つの緊急対策を2009年10月に本格実施した。職業訓練の受講者に生活費を支給する事業は、この10月から「求職者支援制度」として恒久化される。

「第2のセーフティーネットの拡充を求める連絡会議」などが住宅手当の恒久化などを求めた集会=東京都千代田区で
「第2のセーフティーネットの拡充を求める連絡会議」などが住宅手当の恒久化などを求めた集会=東京都千代田区で