2011/08/05
待機児童対策が叫ばれる中、保育士の処遇の悪さが指摘されている。低賃金な上に非正規が増加。保育士不足に悩む保育園は多いが「資格を持っていても待遇が改善されなければ、なり手がいない」との声が上がる。(境田未緒、稲熊美樹)
「20年働いても、手取りは20万円いかないんです」
静岡市の私立保育園で働く保育士の黒田貴子さん(39)は苦笑いした。「資格を取ってみんな頑張っている仕事なのに、切ないですね」
短大卒業後、保育士になって基本給が20万円を超えたのは3年前。税金などを引かれ、残業代がつかない月は、手取り17万円台になることも。ただ、園の経費の人件費比率は82%。給料が不当に低く抑えられているわけではない。
国の認可を受けた民間保育園は、乳幼児の年齢や人数などに応じて国、自治体から支出される運営費でほとんどの経費を賄う。保育士の人件費は、短大卒勤続5年目の福祉職国家公務員の俸給(2011年度19万5228円)で計算され、職員の平均勤続年数に応じて加算がある。
ただ「10年以上」は一律12%加算。独自に人件費を上乗せする自治体もあるが、経験に応じて職員の給料を上げたり、「いい保育をしよう」と国の配置基準以上に職員を雇ったりするほど、運営が苦しくなる仕組みだ。
金沢市の私立保育園に就職して7年目の男性保育士(27)の月給は手取り13万円余。基本給は初任給から約1万8000円上がったが、税金などの関係もあり手取りは約5000円しか上がっていない。「子どもの成長を見届けるやりがいのある仕事。職場環境もいいけど給料は…」と言葉を濁す。
保育士を目指していた同じ短大の男子学生六人のうち、3人は介護系に就職。保育に進んだ3人のうちの1人も「体力は要るけど給料がいい」と介護系に転職した。結婚や子どもが生まれたのを機に職を替える男性保育士も少なくない。
2010年の賃金構造基本統計調査によると、公立も含めた保育士全体の平均給与は21万8600円(勤続年数7・7年)。全産業平均の32万3000円(同11・9年)を大きく下回る。
保育関係者や保護者らでつくる全国保育団体連絡会の実方(じつかた)伸子さんは「給料が上がらないので長く続けられない。保育の専門性が低く見積もられている」と指摘する。
◇
非正規で働く保育士も増えている。ベネッセ次世代育成研究所が08年に実施した調査では、保育士に占める非正規雇用者の割合は公立54%、私立40%。公立は正規の保育士は昇給があるが、非正規では期待できない。
東京都の市立保育園で臨時職員の保育士として11年間、働いている柴田いみ子さん(55)は週5日、1日7・5時間の勤務。担任も受け持つ。「新しい保育士を教える立場。でも1年目も10年目も時給は同じ」と嘆く。
同様の立場の保育士田口知美さん(55)も「これでは若い人が続かない」と懸念。「いい先生だと思っても辞めていく」と語る。週5日、フルタイムで働いても手取りは13万円に届かない。正規への道が開かれているわけでもない。
時給で働く臨時職員は手当が出ないため、行事になかなか参加できないという問題もある。非正規が増えている保育園では、正規保育士の負担が大きくなっているという。
全国福祉保育労働組合東海地方本部書記長の藤原佳子さんは「いい保育をしようと思うと、保育士にしわ寄せがいくばかり。国は、保育は福祉だという視点で待遇改善を考えてほしい」と話している。
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから