2011/07/15
労働力人口の減少で、生産力を維持するため、高齢者の戦力化を図る企業が出てきている。羊毛紡績最大手のニッケ(本社・大阪市)は、定年を65歳に延長。雇用を安定させ、仕事に見合う処遇を心掛け、働く人のやる気を引き出している。 (服部利崇)
「会社から必要とされていると実感する」。ニッケ経営企画室専門部長の堀誠さん(62)は、システム開発分野の生き字引。バリバリの現役管理職として「経営陣と相談しながら、新しい時代に対応できるシステム開発を進めています」。
1967年に入社、59歳で部長になった。60歳になる2008年、会社は64歳まで定年を延長。この年だけ従来の60歳定年との選択制で、堀さんは「次世代に経験を伝えたい」と定年延長を選んだ。09年からは、65歳定年制になった。
フルタイムで職責は重いが、「プレッシャーがあるから、『なにくそ』という気持ちで働ける」。給与も60歳前の水準からさほど落ちていない。
気を付けているのは健康。出勤時は手前の駅で降り、約30分歩く。有給休暇も活用。月1回は3連休にして気分を切り替える。「スキルを生かせる仕事と、やる気を保つ処遇があれば貢献できる」。堀さんは「60代も企業の資源」と誇りを持っている。
ニッケが定年延長を導入した最大の理由は、管理職を主に担う45~55歳の社員数の不足だ。1970年代の石油危機でリストラを進め、新卒採用も5年凍結していた結果だった。
着目したのは団塊世代。だが当時、採用していた1年更新の継続雇用制度では、役職に就かせることはできない。「能力に応じた働きをしてほしい」と定年延長に踏み切った。現在60歳以上は88人で、うち30人が管理職だ。
給与は、部下のいる管理職なら60歳時の100%。非管理職も標準評価なら75%を支給する。必要であれば、前倒しで企業年金を受け取れるようにもした。人事総務課長の川本洋さんは「社員は『60歳=卒業』の意識もなく、能力を発揮している」と語る。
ただし、正社員の身分で65歳まで雇い続けるため、継続雇用制度のときに比べて財務面での負担は増えた。このため従業員950人に占める正社員比率を下げ、賃金制度を年功型から成果型に。全額会社負担の年1回の人間ドック受診も、45歳以上の管理職を対象にした。一方で新卒採用は毎年、十数人を確保している。
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06年施行の改正高年齢者雇用安定法は、公的年金支給開始年齢の引き上げによる無年金状態回避のため、企業に65歳までの雇用確保措置を義務付けた。
措置を講じた企業のうち、定年延長は13・9%で、大企業は少ないとみられる。労働政策研究・研修機構の藤本真副主任研究員は「人事管理制度を大幅に変えることに、ちゅうちょしているのではないか」と分析する。
一方、83・3%の企業が導入する継続雇用制度は、1年更新で企業にとって労務管理がしやすい。だが、働く側にとっては役職から外れたり、望む仕事に就けなかったりで、やる気の維持が難しい。
藤本副主任研究員は「企業は定年延長を視野に入れるべきだ」と訴える。「企業は貢献に見合った処遇で働く人の生活を保障する必要がある。働く側も管理職ポストが限られることを理解し、役職以外で働く価値を見いだすことが大事になる」と指摘している。
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