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【暮らし】<はたらく>病児保育 ニーズ認識に差

2011/06/17

 5月27日付、6月3日付で2回掲載した「病児保育を考える」の記事に、病児保育所の開設者から「国は施設を増やすと言っているのに、実際には補助金を申請しても、自治体から断られている」という情報が寄せられた。施設にとって資金面での柱となる補助金交付の基準はどうなっているのか取材した。 (稲熊美樹)

 愛知県春日井市の「高山さとう内科」。診察して病状が落ち着いている病児の一時預かりを2004年からしている。口コミで保護者らの間に評判が広がり、年間約150人の利用がある。ただ、市の委託を受けていないため補助金はなく、年間1千万円ほどの赤字運営だ。

 病児保育室は、働く親からの要望を受け、医院の増築に合わせて数千万円かけて整備した。「地域の皆さんに恩返しを」と利用料は1人1日3千円に抑えている。市の委託を受ける他施設に比べて千円高いが、常勤保育士2人の人件費や光熱費などはとても賄えない。佐藤俊英院長は「いつまで続けられるか」と悩みつつ「できる間は続けたい」と話す。

 同市は、病気の回復期にある「病後児」保育を、3カ所の医療機関に運営委託している。病後時保育は、病児保育より補助金が少なく、国、県と合わせ、3施設で年間計2千230万円。高山さとう内科は05年から、市医師会の推薦を受けて3回応募したが、いずれも通らなかった。

 市によると、選考は小学校長ら5人の委員でつくる選定委員会で行う。基準は▽市に協力的か▽責任感があるか▽構想が明確か▽独自性はあるか-など八項目。各項目につき5点満点で委員が評価し、その合計点で決めるという。委託は自治体に任せられており「何を基準にするかは自治体が決めること」(厚生労働省)という。

 市は「今のところ、保育のニーズは十分満たしており、委託を増やす予定はない」と明言。ただ、委託3施設の利用者数は調べているものの、満員のため何件断ったかは把握しておらず、「ニーズを満たしている」根拠はあいまいだ。

     ◇

 東海地方の別の市にあるNPO法人は2月、JRや私鉄の駅から徒歩圏内にある市の中心部に病児保育所を開設した。市に委託を申請したが、「別の病児保育所と近い」と断られた。電車通勤する保護者には便利な場所だが、既存の病児保育所と1キロしか離れておらず、市は共倒れの可能性を懸念したという。

 30分500円で預かりを始めたが、採算が合わず、2カ月で断念した。医師でもある女性理事長は「NPO法人の財力ではとてもやっていけない。要望もあるが再開は難しい」と語る。「場所で一律に決めるのではなく、交通の便も考え、利用者の視点で判断してほしい」と自治体に柔軟な対応を求める。

 厚労省によると、昨年度の病児保育の利用者は全国で延べ39万人。同省は自治体の行動計画を基に、14年度までに年間200万人の利用を目標に掲げる。が、人口や子どもの数に応じた施設数や定員の目安は示しておらず、「地域ごとに判断してほしい」とするにとどまる。

 保育政策に詳しい日本福祉大の中村強士准教授は「働く親たちにとって、病児保育は不可欠で、まだニーズはある」とした上で、病児保育施設への補助金について「国が作った基準を満たす施設には、補助をしていくべきだ」と話している。

病児保育を行っている高山さとう内科。赤字運営を余儀なくされている
病児保育を行っている高山さとう内科。赤字運営を余儀なくされている