2011/06/16
制度見直しへ協議
地方 財政圧迫に危機感
支援団体 財源優先を批判
生活保護受給者が増え続け、200万人を超える中、制度の見直しに向け、厚生労働省と地方自治体の協議が始まった。働く能力がある受給者への就労支援強化を中心に検討される見通し。膨らみ続ける保護費の負担を圧縮したい地方の思惑も浮かび上がる。貧困問題に取り組む団体は給付の制限につながる事を懸念。「当事者の意見を聴くべきだ」と批判の声を上げている。(稲田雅文)
「(働ける人については)本来、雇用・労働可能層まで生活保護で支えていることが問題だ」。5月30日に労働省で開いた国と地方の協議の初会合。全国最多の15万人の受給者を抱える大阪市の平松邦夫市長は抗主張した。
稼動可能層とは、主に失業した現役世代の受給者を指す。ここ数年で急増し、3月には24万4千世帯と、2008年のリーマン・ショック前の2倍に増えた。保護費の25%は地方が負担。受給者増は自治体税制を圧迫している。
平松市長は、働ける人には期間を定めて就労支援を集中的に実施し、就労できない場合は、自立支援の一環として、ボランティアへの参加を義務付けるなど、方策を提案。石川県の谷本正憲知事も、期限付きの就労支援プログラムの重点実施を促した。
こうした協議が開かれるのは05年、09年に次いで3回目。地方側の要望で開催が決まったのは今回が初めてだ。
早期に自立できるような就労支援施策の充実が議論の中心になる見込み。3・4兆円の保護費のうち1・5兆円を占める医療扶助については、自己負担の導入による適正化を検討するなど、給付抑制に主眼が置かれそうだ。今後は事務レベルでの検討が進められ、8月に具体案がまとまる
◇ ◇ ◇
「(期限が設けられた場合)もしかしたら自分は路上に出なければならないのかと絶望を感じます」埼玉県で生活保護を受ける男性(56)は支援者が同日に省内で開いた記者会見で不安な胸の内を語った。
男性は、2日に1度はハローワークで職探しをするが、仕事は見つからない。3、4時間捜して、やっと企業に1本電話が出来るかどうか。面接にすらたどり着けないという。
生活保護受給者の増加は、非正規労働者の増加と景気の悪化などが主な原因。再就職できなくてもできない現実があるのに、財源論で給付の制限を議論する国や地方自治体の姿勢を批判する声が上がる。
受給者を支援する全国の53団体は、今回の協議に抗議し、当事者の声を聴くように求める申し入れ書を同省に提出した。協議が一般には非公開で実施されることに対しても、日弁連が15日、民主的な議論を求める会長声名そ出している。
申し入れ団体の一つ、NPO法人「自立生活サポートセンターもやい」の稲葉剛理事長は「生活保護制度を見直すのは、受給者の生活に直結する重大な問題。生存権の保障という制度の理念を守り、当事者の声を聴くべきだ」と訴える。
生活保護問題対策全国会議の事務局長を務める小久保哲郎弁護士は「東日本大震災が雇用情勢悪化に追い討ちをかける中、生活保護を制限するような不合理な改革をしたら、受給者の中から死人が出かねない」と警鐘を鳴らす。
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