2011/06/03
新たな病児・病後児保育の形として、保育側が利用者宅を訪れて子どもを世話する「訪問型」が、注目されている。
東京都を中心に首都圏で病児保育を展開するNPO法人フローレンス(東京都千代田区)は、「こどもレスキュー隊員」と呼ぶ保育スタッフを会員宅に派遣する。2005年の事業開始以来、会員は増え続け、現在は千六百人以上が登録している。
東京都の女性会社員(39)は、長男(3つ)が熱を出した日の夜、フローレンスに連絡。翌朝、八時すぎに駆け付けたこどもレスキュー隊員(54)に看病をバトンタッチした。
女性会社員は施設型の病児保育を利用したこともあるが「家の方が子どもは安心する」。慣れない病児保育所へ行く必要がなく、好きなおもちゃで遊ぶこともできるからだ。
最初は、自分がいないときに他人を自宅に入れる不安もあった。しかし、利用してみると「何かあればすぐに連絡が入るし、病院にも連れて行ってくれる」と安心感に変わった。
こどもレスキュー隊員は、保育士や子育て経験者ら約40人。病児を預かるため、研修に力を入れている。小児医療や保育を学ぶ座学に加え、実践は1カ月半みっちり。
保育中に子どもの異変を感じたら、すぐに親に連絡し、受診する手順などが定められている。利用がキャンセルされた日は研修に充てる。より良い対応を考え、常にマニュアルを見直している。
補助金を受けても赤字経営に苦しむ施設型が多い一方、訪問型のフローレンスは、国などから補助金を受けていない。経営安定のため、利用してもしなくても月会費を支払ってもらう共済型を取り入れている。
毎月1回、午前8時~午後5時半の利用は無料。2回目以降は1時間当たり2100円。月会費は直近3カ月の利用頻度に応じて変わり、5250~1万1000円。会員の七割は5250~8400円という。
利用する日だけ1日2000円前後の利用料を支払えば済む施設型の病児・病後児保育に比べると、経済的負担は大きい。
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東京都渋谷区は本年度から、訪問型の病児・病後児保育を利用すると、利用料の一部を助成する制度を導入した。利用後に申請すると、1時間当たり1000円(年4万円が限度)の助成が受けられる。
厚生労働省は本年度から、施設型に加えて訪問型も助成の対象とした。施設型は基本分が240万円で、人数に応じた加算がある。年間の利用が600人の場合は775万円が加算される。
訪問型は1カ所あたり659万円が事業者に支給される。補助金は国と都道府県、市町村が負担する。
ただ、この場合、補助金を受けると共済型は続けられず、経営が安定しないため、フローレンスは申請していない。
核家族が多く、地域の支え合いも少ない都市では、病児保育のニーズが高い。
病児保育に詳しい学習院大経済学部の鈴木亘教授は「今の仕組みでは、補助金を少し高くしたからといって採算ベースに乗せるのは難しい」とした上で、「皆で負担し、支え合う医療保険と同じ考え方で、保育料と一緒に保険料を徴収し、病児保育の運営に回しては」と提案している。
(稲熊美樹)
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