2011/03/24
治った病気「治ってない」と担当者 強要…やむなく辞退
厳しい経済情勢の中、卒業式を終えても就職先が決まらず、就職活動に励む学生らがいる。その中の1人、入社間際に“内定取り消し”に遭った学生に取材した。東日本大震災の影響で今後、内定の取り消しや入社時期の繰り下げが広がることも懸念されている(境田未緒)
◆愛知の大学生
愛知県の私立大4年の男子学生(22)が大阪市のアパレル会社から「内定自体の受理通知」を受け取ったのは2月終わり。「辞退の強要です。裏切られた思い」と語る。
一昨年秋に就職活動を始めた。商社などの説明会を訪れるうちアパレルへの関心が高まり、見つけたのがその会社。「若い社員が多く、社会貢献にも力を入れている」と第一志望に定めた。
筆記試験、対論、面接などを重ね、内定通知書をもらったのは昨年4月下旬。説明会に2千人以上が来ていた中、総合職で内定を得たのは8人だった。ほかの2社から口頭でもらっていた内定は断った。
研修が始まった10月下旬ころから、脚に違和感を感じるように。次第に痛くて動かなくなり、座骨神経痛と診断された。会社に報告すると「2月中旬までに治らなければ契約社員になるかもしれない」と言われ、治った確認のため診断書を提出するよう促された。
1月下旬、会社から電話があり、「留年すれば新卒扱いで他社に就職できる」「縁がなかったと思って」などと辞退を勧められた。脚の状態が改善していた男子学生は辞退を断った。2月に入って「治ったので診断書を提出します」と電話をかけたところ、「診断書は当てにならない。会って具合を見ないと」と本社に呼び出された。
出向くとスーツに革靴のまま段ボールを運んでタイムを計られ、会社の階段をダッシュで2往復させられた。1・5キロほどを人事部の社員の2人の自転車に挟まれ、ランニングもした。しばらく運動していなかったため、走り終えて少し足をひきずると、「ほら治ってない」と言われた。
その日の話し合いで、会社側は「入社しても試用期間の3ヶ月以内で解雇できる」とも。「内定取り消しを出してください」と申し出ると、「取り消しはしない。辞退を」と繰り返された。男子学生は翌日、「もう信頼関係が無い」と電話で内定を辞退した。
「内定学生の立場がこれほど弱いとは。今は、こんな会社に入らなくて良かったと思う」。男子学生は「東日本大震災の被災者の方を思えば、僕の悩みはちっぽけ」と気を持ち直して就活を再開したものの、震災の影響で、予定されていた面接が全て中止となった。今は「別の道を考えようか」と思い悩んでいる。
◇ ◇ ◇
内定取り消しは、2008年秋のリーマン・ショック後に多発。厚生労働省は、対策として、各都道府県に特別相談窓口を設け、取り消しをした事業者がハローワークに通知するように定めた。ただし、今回の男子学生のような辞退強要は「取り消し」の数に入らない。
本年度は内定率が低い一方、内定取り消しは一昨年ほどではない。ただ今回の大震災で、自社や取引先が被害を受けるなどし、内定取り消しや入職時期の繰り下げが出る可能性がある。
学生らの就活を支援している「愛知新卒応援ハローワーク」の神野智恵子主幹は「健康を理由に内定取り消しはできないし、事業主には最大限の経営努力が求められる」と指摘。「震災の影響はじわじわと広がるのでは。大学と連携しながら注意深く見守り、学生らを支援したい」と話している。
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