2011/03/04
厳しい状況が続く就職戦線。最近は、大手企業が外国人留学生の積極採用に乗り出して話題を集めるが、日本独特の就職活動や企業風土に苦戦する人は多い。そんな中、アルバイトを利用して留学生が日本の組織を学ぶ試みを、名古屋大留学生相談室と元留学生らが始め、注目されている。 (境田未緒)
「日本組織なじみ塾」と名付けられたプログラムは、留学生がアルバイト先で課題を見つけ、「改善」に取り組むことで日本の組織文化を習得する。名古屋大や中京大などの留学生18人が第1期生として、昨年7月から参加した。
スーパーマーケットの水産売り場で夕方からアルバイトしている名古屋大法学部三年の馬政鈞さん(24)=中国・上海市出身=は、「商品廃棄の削減」を改善テーマに設定。新しい店で独自のノウハウがなく、廃棄量が多くなっていたため、商品の値引きのタイミングを価格や残数などから判断することにした。すると廃棄量が2カ月で半分近くに減った。
改善活動を見守った上司の社員(44)は「決められた時間に言われたことをやっていたが、改善を通して積極的になり、後輩にもリーダーシップをとって教えている」と馬さんの変化を指摘する。
馬さんは「社員の人と話す機会が増え、仕事と作業の違いが分かった。外国人でも仕事ができると、会社の方にも分かってもらえたのでは」と振り返る。なじみ塾での学びを生かして現在、就活に励んでいる。
なじみ塾を考えたのは、中国・江西省出身の張敬清さん(34)。2000年に来日して北九州市立大に入学。英国留学を経て、愛知県内の自動車部品メーカーに就職した。英国留学のため就活開始は4年生の6月。適性検査など独特の試験に戸惑い、相談相手もおらず、孤独感が募った。
入社後、人事部で採用を担当して、企業側も外国人留学生の採用に悩んでいると分かった。特に中小企業は、採用したくても組織になじめるか不安で踏み切れない。ボランティアで留学生の就活支援を始め、09年に外国人留学生の就職支援、入社後の人材育成を目指す会社Keiseiを設立した。
「組織文化を理解して周囲との関係を築かないと、いくら優秀でも実力やスキルを生かせない」と張さん。短期のインターンシップ(就業体験)では組織が分からず、アルバイトで生活費を稼ぐ留学生に長期のインターンシップは難しいため、アルバイトを活用することにした。
塾生は最初に合宿で、日本企業で大切にされる5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)などを学習。改善活動では、張さんらも定期的にアルバイト先に状況を聞き、個別に留学生を見守った。賃金や勤務時間は通常通り。留学生の中には、居酒屋の客単価アップ、コンビニでのファストフード売り上げ向上を達成した人もいた。
名古屋市内で一月にあった塾の成果発表会に参加した自動車関連企業の人事担当者は「うちのような中小では、入社後の教育がしっかりできない。アルバイトで5Sや組織の基本を身に付けてくれていたらありがたい」と活動を評価。
名古屋大留学生相談室の松浦まち子室長は「実践的にチームの中で問題を発見し、解決してコミュニケーション力を鍛えることが大事。日本人学生にも必要では」と話している。
◆増える留学生、就職は苦戦
国は、2020年をめどに留学生受け入れ30万人を目指す計画を策定。留学生の数は年々増え続け、日本学生支援機構によると、本年度の留学生は約14万2千人と過去最高を記録している。うち3分の1が「就職適齢期」で、その6割が日本での就職を希望しているとみられるが、実際に就職できるのは1万人ほど。不況の影響で09年、日本企業に就職するため、在留資格を変更した人数は08年の1万1千40人から1割以上、減少して9千5百84人となっている。
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