中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【暮らし】<はたらく>自治体採用 受け身から攻めへ 民間志望者にも狙い

2011/02/11

 就職情報会社などが主催する合同企業説明会で、地方自治体の参加が増えている。民間企業を目指す学生に、公務員にも目を向けてもらう狙い。より優秀な人材を確保するため、試験内容を変えたり、採用試験を早めたりする自治体も出ている。(境田未緒)

 「市外の人でも大丈夫。名古屋から近いですよ」

 名古屋市内で一月下旬にあった大型合同企業説明会「マイナビ就職EXPO」。岐阜県多治見市のブースで、人事課副主幹の河地孝彦さんが、リクルートスーツに身を包んだ学生らに熱心に語りかけた。

 多治見市は一昨年から、合同企業説明会への参加を始めた。今回、より幅広い人材を求めて、初めて大型説明会に出展。「以前は、申し込みを待つだけの受け身だった。民間志望の優秀な学生にも、選択肢の一つとして考えてほしい」と河地さんは力を込める。

 説明会に参加した官公庁は、百六十九団体のうち八団体。主催した毎日コミュニケーションズの担当者は「大手企業の採用が厳しくなり、市役所などにとって優秀な人材を確保するチャンス」と分析。同様の説明会を開くリクルートでも「ここ二、三年、地方自治体の参加が増えている」という。

     ◇

 公務員試験といえば「専門の勉強が必要で試験日が遅い」など、民間を目指してきた学生には受験しにくい面がある。このため、採用試験を変える自治体もある。

 就職EXPOに初参加した愛知県刈谷市は、二〇一二年春採用の試験から、一般事務職に二つの日程を取り入れる。従来型は他市と同様、七月下旬に一次試験を実施。定員の一部は民間の内定が出る前の四月上旬に募集を始め、五月中旬から試験を行い、七月中旬に合格を通知する予定だ。

 試験内容も、新規日程では教養試験を課さず、自己PRや面接、集団討論などで判断する。同市職員課では「民間と同じベースで打って出て、いい人材を早く確保したい」と狙いを語る。

 千葉県船橋市も一〇年春採用の試験から、「上級一般行政」で、行政学や憲法などの専門試験を外した枠を設けた。担当者は「受験者の分母が広がらなければ、優秀な人材は集まらない。多様な人材が欲しい」と話す。

 都道府県でも、神奈川県が今春採用の試験から、行政職員の一部に専門試験がなく、試験日も早い枠を設けた。大阪府は一二年春入庁の採用試験から、二十二歳以上の行政職員(知事部局、教育委員会等勤務)には択一式の試験を課さず、小論文やエントリーシートで評価する。

     ◇

 学生の反応はどうか。就職EXPOに出展した地方自治体の中で、ひときわ多くの学生が詰めかけた愛知県豊田市のブース。同市は〇三年春の採用から、自己アピール試験を始めた自治体採用改革の草分け。試験日程も一部で早めている。

 説明に耳を傾けていた名古屋外国語大の女子学生(20)は「旅行業界を目指していますが、市役所の仕事も楽しそう。受けやすいのも魅力」と心が動いた様子。説明会では、研修内容などについての質問が相次いだ。

 自治体の職員採用に詳しい早稲田大の稲継裕昭教授は「地方自治体では、昭和四十年代に縁故採用が問題視されて以降、筆記試験が公平だとして重視されてきた」と歴史を説明。平成になってから、公務員予備校の林立で試験合格が目的化し、「筆記試験で優秀でも、現場で役に立たない」人が目立つようになった。

 稲継教授は「民間で残った人をすくい上げるのではなく、民間でも欲しい人材を取る。より良い住民サービスのため、人物重視の試験方式は好ましい傾向」と話している。

学生が詰めかけた「マイナビ就職EXPO」の愛知県豊田市のブース
学生が詰めかけた「マイナビ就職EXPO」の愛知県豊田市のブース