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【暮らし】<うぇるかむシニア>まず安心感与えたい 働く人の労働相談に乗る 小泉 信幸さん66歳

2011/02/09

 「相談コーナーです」

 総合労働相談員の小泉信幸さんは、いつものように穏やかな口調で電話に出る。東京都渋谷区の新宿南総合労働相談コーナーで、働く人の悩みに寄り添う。

 電話は女性からの残業代未払いの相談だった。「実労働を提供していれば請求できます。事業所を管轄する労働基準監督署に相談してください」

 終始丁寧な言葉遣いを崩さない。解雇、賃下げ、セクハラ・パワハラ…。気が動転している相談者に「まず安心感を与えたい」思いからだ。

 大学卒業後、大手自動車メーカーに就職。51歳で子会社の販売会社に転籍、2004年に定年を迎えた。慣れた営業職で再就職を目指したが、かなわなかった。販売会社で労務を経験。ハローワーク職員から、紹介されたのが相談員だった。

 総合労働相談員は非常勤の国家公務員。労働問題全般について、労働者と使用者側からの相談に無料で応じる。都道府県労働局の助言・指導や、紛争調整委員会のあっせんの受け付けも担当する。全国に現在、七百五十九人いる。

 相談業務経験はなかったが、未知の分野で自分を試したかった。面談を受けた限り、法知識より経験や人間性が求められている。「これならお手伝いできる」と、05年から新宿労基署で働き始めた。

 ただ労働相談は会社の労務とは勝手が違った。最初の1年はまともに応対できず、誤回答もした。右往左往の対応ぶりに相談相手から「電話を代わって」とダメだしもされた。「つらかった。アルコールの力を借りないと帰宅できなかった」

 だが辞めるつもりはなかった。「悔しい。このまま引き下がれない」。煙たがられるのを承知で、周囲に疑問を聞いて回った。厚さ10センチにもなる労働基準法の概説書は土日返上で読み込んだ。

 1年半後には自然と対応できるようになった。上司にあたる東京労働局総務部企画室の高橋尚子室長は「勉強家で、相談者の気持ちをつかむ能力もある」と高く評価する。

 08年のリーマン・ショック以降、労働環境は悪化。全国的に労働相談件数は右肩上がりに。1日10数件対応することもザラだ。「人間対人間という労働紛争の本質は変わらない。ただ終身雇用が崩れて職場のタメ(余裕)が失われ、昔よりギクシャクしている」

 相談員6年目。中立の立場が求められる奥深い仕事だが、これほど自分の力を思い切り出せる仕事はないと確信する。

 「天職だと思う。体力の続く限り続けたい」

 (服部利崇)

◆若い世代へ 気持ちよくあいさつを
 賃金未払いの相談だった。仕事がきつく、1週間でアルバイト先を辞めた男性が「あいさつせず辞めた。怖くて取りに行けない」と言う。バイト代はもらえるが、まずは親身になって教えてくれた店長に謝るべきだ、と答えた。若者は自分の権利には敏感だが、異なる世代とのコミュニケーションは苦手のよう。仕事は人と人との関わりが必須。まずは気持ちよく、朝のあいさつをしてみては。される側もすがすがしい気分になるし距離も縮まる。

「相談員は相談者の不安にどれだけ寄り添えるかが求められる」と話す小泉信幸さん=東京都渋谷区で
「相談員は相談者の不安にどれだけ寄り添えるかが求められる」と話す小泉信幸さん=東京都渋谷区で