2011/02/03
学生時代に発達障害の一つ「アスペルガー症候群」の診断を受けた愛知県の男性(26)が、就職支援機関の支援を受けながら就職を果たした。障害者手帳を取得した上で、会社に自分の個性や障害の特徴を伝えたことが、採用につながった。採用までの道のりや工夫を聞いた。 (市川真)
中部地方の工学系大学に通っていた男性が就職活動を始めたのは、三年生だった二〇〇五年春ごろ。金属加工や電子関係メーカーの会社説明会に出席。卒業までに百五十社を受け、うち百二十社が面接まで行ったが、次々と不採用になった。
理由は「話が正確すぎて、交渉や指示は優秀だが、日常会話が成立しないのでは」「学生らしさがなく、管理職や教授と話している錯覚を覚える」などというものだった。
男性は、小学校卒業時の同級生アンケートで、「宇宙人と話してそうな人」の一位に選ばれるなど、言葉のニュアンスを読み取るコミュニケーションが苦手な面がすでに出ていた。しかし、障害には全く気づいていなかったという。
面接が失敗続きだったため、大学のカウンセラーに相談すると、障害の可能性を指摘された。精神科を受診した結果、「自律神経失調症とうつ」との診断。さらに詳しい診察の結果、アスペルガー症候群であることが卒業間際に判明した。男性は、確定診断を受ける直前の三月、派遣会社の正社員の採用内定を受けていた。
四月の入社式直前、発達障害と診断されたことを会社に伝えると、営業担当者は「派遣先企業からクレームが来る恐れがある」と難色を示した。男性は退職を申し出た。
大学祭実行委員を務め、スポーツも好きな積極的な性格だけに、その後立ち直って、学生時代と同じファストフード店でアルバイトをしながら、健常者枠での入社を目指した。
しかし、求人誌やハローワークで探した会社に手当たり次第に連絡を取ったが、今度は書類提出段階で門前払いが続いた。
男性は、企業の障害者枠での採用を目指すことに変更し、障害者手帳を取得。ハローワークの紹介で、名古屋市にある「なごや障害者就業・生活支援センター」の支援を受けることになった。
センターの就業生活支援ワーカー渡辺ゆりかさんは、チームワークで就活を成功させるために、男性との間で三つルールを決め、紙に書き上げた。▽ハローワークに行くのは週一回に限定▽二週間に一回は渡辺さんと一緒に行く▽ハローワークの担当者を決める-。ルールを必ず守る男性の性格を利用しながら、就活の方向性を見定めるためだった。
また、男性が自分の障害を説明するために用意した書類を大幅に簡略化。「指示の内容や指示する人を決めてほしい」などと、会社への要望を具体的に書いた=表。「障害があるけれど大丈夫と、採用担当者に思ってもらえるかがカギ。面接で実際に話せば、人の良さが分かってもらえる」と渡辺さんは話す。
◇
男性は正社員採用が希望だったが、まずは職歴を積み重ねるために契約社員を目指すことに。大手運輸会社の面接試験を受け、〇九年十月に一年更新の契約社員として採用された。それまでに不採用とした企業は、学生時代から数えると七百五十社に上った。
男性は今、同社で書類の電子化の仕事に携わる。「障害があると、話を聞いてもらえるまでが長い。一人でうまくこなすのは難しく、支援機関が入ってやっとスタートラインにつけた」と振り返った。
◆アスペルガー症候群の人への就労上のサポート具体例
(午前中に入力の仕事を済ませてほしいとき)
<伝わりにくい指示例>
「お昼休みまでにこの書類を片付けて」
「時間が余ったら、○○さんを手伝って」
「お昼までにできそうもないときは言って」
<よく伝わる指示例>
「12時までにこの資料50部を入力してください」
「50部すべて済ませて時間が余ったら、私の所に指示を聞きにきて」
「11時40分までに入力が終わっていなかったら、残りの部数を伝えて」
<アスペルガー症候群> 知的障害も言葉の遅れもないが、社会性の欠如、コミュニケーション障害、興味の偏りなどの問題を持つ。脳の機能障害による「広汎(こうはん)性発達障害」の一つ。広汎性発達障害は1万人に40~60人といわれる。
<障害者就業・生活支援センター> 障害者の自立・安定した生活実現のため、就業に関する相談、日常・地域生活の助言など、関係機関と連携しながら障害者を総合的に支援する。厚生労働省と都道府県の委託を受け、社団法人などの公益法人、社会福祉法人、NPOなどが運営。就業支援担当2人、生活支援担当1人の専門職員が配置される。各都道府県に数カ所~10カ所程度配置されている。
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