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【静岡経済 特集】働き方の行方 2011年(3)  不足する介護士

2011/01/22

担い手 外国人頼み

 「元気にやっていますか」。浜松市北区にある重度障害者施設・聖隷厚生園信生寮。フィリピン国籍のマリベル・シルダさん(29)が、車いすの高齢の女性にほほえみかける。たどたどしい日本語に、うなずく女性。「私の名前、分かりますか」。マリベルさんが問うと、女性は「マ、リ、ベ、ル、さ、ん」と言葉をつなぎ、うれしそうに笑った。

 マリベルさんはフィリピンの大学を卒業後、現地の日本語教室で日本語を学んだ。経済連携協定(EPA)に基づいて来日。半年間の研修を経て、介護福祉士候補者として信生寮で1年前に働き始めた。午前8時から午後5時まで、入所者の食事介助や排便、風呂の世話と多忙な日々。現場の戦力になりつつある。

 「日本は母国と比べてずっと豊か。あこがれていました」とマリベルさん。だが、介護福祉士候補者は4年以内に国家試験(日本語)に合格し介護福祉士の資格を取得する必要がある。受験のチャンスは一度きり。不合格なら帰国となるが、母国の働き口は少ない。

 マリベルさんが話せる日本語は、まだ小学生程度だ。実務はこなせても、介護の専門用語が漢字の表記ならば、理解するには時間がかかる。勤務後は、夕食を済ませてから、就寝までの約4時間を日本語や試験の勉強にあてる。「漢字は得意じゃありません。日本語でコミュニケーションするのも難しい。でも、介護の仕事は日本もフィリピンも同じ。これからも日本で働きたい」と強く願う。

  ◇   ◇

 外国人を介護職員として雇用する施設は静岡県内で80カ所。県が2009年度に実施した調査から6割程増えている。これらの施設で働く外国人は、50人増えて131人に上る。信生寮では、マリベルさんを含む2人が働く。

 急速に進む高齢化社会。にもかかわらず、介護の現場は深刻な人手不足に悩まされている。就職難と言われながらも、勤務の厳しさから「学生にも敬遠されがち」(浜松市内の教員)のが実情だ。介護福祉士の候補者を受け入れる側にとっても、受け入れのための費用や日本語研修などで人的、経済的な負担も大きく、試行錯誤が続く。

 信生寮の母体となる聖隷福祉事業団は、候補者に対し、日本語をはじめとした支援を続けている。望月ひろみEPA担当課長は「『言葉の壁』は大きい。候補者の介護技術は高いのに意思がなかなか伝わらない」と説明。「国家試験を通らないと即帰国というのは厳しい。日本語に加え、介護の専門知識を学ぶプランがまだ不十分で、試験までに時間だけが経過してしまう」と指摘する。

 望月さんは、EPAの枠組みに頼らず、在日の外国人も積極的に介護施設で雇用することも考える。「日本人スタッフだけでは、介護の現場は限界が間もなく訪れる。日本人は、外国人に介護の現場で働いてもらうということをもっと真剣に考えなければいけない」と訴える。 (神野光伸)