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【静岡経済 特集】働き方の行方 2011年(4) 高校生の就職

2011/01/27

「どこでも」は難しい

 運送業、クリーニング業者…。求人票を食い入るように見る。県西部の高校に通学する女子生徒(17)の志望は事務職だ。求人票に「事務職」の文字を見つければ、面接を申し込む。職種は問わないが、内定が取れない。高卒を対象にしていたはずの企業は断りもなく中途を採用する方針に転じた。同じ“土俵”で戦えず、砂をかむような思いをした。

 同級生が次々と内定を勝ち取る中、焦りながらも3社目に面接を受けたのは介護施設。志望動機は、先に受けた会社より明確だった。「訪問看護をする母の影響で介護の現場が身近に感じた」から。昨年11月に、この生徒は内定を獲得した。

 同じ学校に通う女子生徒(18)は卒業を3月に控え、まだ内定が取れていない。公務員を目指していたが、かなわずに民間への就職希望に変更し、今も就職活動を続ける。「職種は問いません。でも、入りたい企業を見つけるのは難しい。自分に合わない仕事を選んでも続かないと思う」と、ため息交じりに漏らした。

 生徒たちに共通するのは、職種は問わない。だが、大半が安定した会社を希望していることだ。進学ではなく就職を選択する。だが「職場で将来にわたって何がしたいのか」。その動機があいまいに映る。進路担当の男性教諭は「内定がなかなか得られない生徒の多くは、志望動機がはっきりしない」と話す。それは、「何を仕事にしたいか」をまだはっきりと分からないからだろう。

 先行きが不透明な時代。学生の安定志向は強まる一方だ。ただ「就職できればどこでも」と考える学生に対して、「だれでもいい」と考える企業はない。人手不足に悩み、積極的に若手を採用したい中小企業も慎重な姿勢を崩さない。学生との溝は埋まらないままだ。

 浜松市内で19日に開かれた高校生を対象にした就職面接会。内定していない今春の卒業を控えた150人が会場に詰め掛けたが、採用担当者の表情は険しかった。

 市内で空調設備工事会社を経営する社長は失望を隠せなかった。「安定、大手志向は変わらない。こんな時代だから、新しい仕事に目を向けるべきだが、危機感がない。就職したくてもできないから『何でもいい』では駄目。期待外れ」と顔をしかめた。「新卒採用は将来への先行投資。特に高校生は技術者として育て上げたいのに」と続けた。

 就職の動機が明確でないまま入社して早期に離職する若者も増えている。「1年、2年働いても、技術は習得できないのに」(湖西市の電子部品製造会社担当者)という。

 職業教育の問題を挙げる関係者もいた。「働く意識が薄い。目指す職業もないし、就職してもすぐにやめちゃう。学校で企業人としての心構えをもっと教えるべきだ。このままだと、日本は世界の中で孤立しちゃうよ」。

 (林知孝、神野光伸、写真も)

高校に募集があった求人票。求人はあっても、企業と生徒とのマッチングは思うようにはいかない
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