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【暮らし】<はたらく>労基法改正も効果限定的  まかり通る長時間労働

2011/01/28

 非正規で働く若年層が増える一方、違法な長時間労働に悩む正社員の若者が多い。長時間労働防止のため昨春、残業代の割増率を引き上げる改正労働基準法が施行されたが、中小企業への適用は猶予され、効果は限定的。残業を前提とする働かせ方が、問題解決の障害になっている。 (福沢英里)

 就職氷河期といわれた十年前、名古屋市の三十代男性は念願かない、自動車部品の開発設計などを手掛ける大手メーカーに技術系総合職として入社した。

 入社四年目に配属されたのは、平日は日付が変わる深夜まで働き、土・日曜日の出勤もある部署。体力のある若手が多く、「きつい」とは言えない雰囲気だった。

 仕事上のストレスも多く、半年後に睡眠障害、一年たつころにはうつ症状が出始め、一カ月ほど休職した。復職後、上司から「定時で終わらせろ」と言われたが、納期は変わらず、再び残業の日々。無理を重ね、二度目の休職に追い込まれた。

 医師から「復職可」の診断書を得たが、休職期間が終わらないうちに、会社から「退職扱い」の通知があった。男性は解雇撤回を求めて提訴。「出力100%でなく60%でいいから納期を守れ、と言われながら、人の命を預かる自動車部品の設計をしていた」と振り返る。「納期優先の考え方を変えなければ、長時間労働はなくならない」と訴える。

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 労働基準法をQ&A方式で簡潔に解説したメールマガジン発行や、インターネットの動画による労働相談など、ユニークな活動を展開する「地域労組おおさか青年部」(大阪市)。相談に来る若者の大半に、長時間労働の問題があるという。

 書記長の中嶌聡(あきら)さん(28)は「今は、長時間労働やサービス残業に耐えれば給与が上がる時代ではない。若者は将来に不安を感じながらも仕事にやりがいを求め、理不尽な労働条件に必死でしがみついている」と分析。会社は、低賃金で雇い、長時間働かせて利益を上げるのではなく「社員の能力を最大限発揮させる働き方を考えるべきだ」と指摘する。

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 改正労基法は中小企業への適用が当分の間、猶予される。少人数の職場ほど、長時間労働は深刻だ。

 三重県の女性(26)は大学卒業後、カフェ開業の夢実現のため、大阪の専門学校へ。卒業後は「人に喜んでもらえる仕事がしたい」と、以前から興味があった地元の飲食店に自らを売り込んだ。

 勤務は午前五時から午後三時までの早番。入社して四カ月後、店舗の移転でメニュー数が増え、客数も三倍に伸びた。

 朝三時から夕方まで働いても、仕事が終わらない。移転後の二カ月間で休んだのは二日だけ。労働時間は月三百九十五時間に上り、月給二十四万円を時給換算すると、六百円だった。

 正社員は女性一人だけ。店にも立つワンマン社長には怒られることも多かったが、「厳しくされるのは正社員だから」と受け止めた。しかし、我慢も限界に達し、休暇を申し出ると「休めるわけない」と突っぱねられた。

 個人加盟できる労働組合に相談し、労働基準監督署に訴えた。労基署の指導で社長の態度は変わったが、居づらくなって辞めた。「飲食業界は、フォークが飛ぶような過酷な厨房(ちゅうぼう)で一日中働いて生き残る人間こそ本物、という考えがまかり通る世界」と女性は冷ややかに話す。

 今は、五社目でようやく受かった葬儀会社で正社員として働く。「人間らしい働き方ができるのがいい。人に喜んでもらえてやりがいもある」。カフェ開業の夢はあきらめていないが、飲食業界で働くことは、当分考えていない。

<改正労働基準法> 時間外労働を削減し、仕事と生活の調和を図るため、昨年4月1日に施行された。月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、25%以上から50%以上に引き上げられた(中小企業は当分の間、適用を猶予)。労使協定で引き上げ分の割増賃金を有給の休暇に代えることができる。

地域労組おおさか青年部は動画による労働相談などユニークな活動に取り組んでいる。長時間労働に悩む若者も多く訪れる=大阪市で
地域労組おおさか青年部は動画による労働相談などユニークな活動に取り組んでいる。長時間労働に悩む若者も多く訪れる=大阪市で