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【元気のタネ】ブラジル人が主戦力 東海のものづくり産業

2010/12/29

 東海地方のものづくりの現場で、職人の域に達する日系ブラジル人が登場し始め、貴重な戦力になっている。日系人の定住者の在留資格が認められた改正入管難民法施行から20年。働く場を求め海を渡ってきたブラジル人たちは経験を積み、今や「メード・イン・ジャパン」を支える存在になりつつある。

 溶接特有のにおいが立ち込める工場内の作業現場。日系ブラジル人の従業員たちが、受注した工作機械の潤滑油ろ過水槽の製作に励む。「水漏れすると大変なんで」。説明する日本語も流ちょうだ。

 自動省力機械、セラミックス関連の製造ラインを手掛ける設備メーカー、文晶堂(岐阜県可児市)は、組み立てや溶接の技能員として3人の日系ブラジル人を雇う。

 その1人、イララ・マルコスさん(50)は同社で10年近く働く。溶接のほかに設備の据え付けもこなす現場のリーダー的存在だ。入社5年目のチバ・マルセールさん(36)は、日本人でも難しいとされるステンレス薄板溶接の技能を持つ。マエダ・ジョンソン・トシオさん(36)は今夏にマルコスさんの紹介で入社したばかりだが、以前に東海地方の自動車車体メーカーで品質検査の現場リーダーを務めた経歴があり、現場作業に詳しい。

 3人は1990年6月の改正入管難民法施行直後の91年に来日。複数の工場で溶接や組み立てなどの技能を身に付けてきた。長引く不況の中で、日系ブラジル人の間でもスキルアップ(技能向上)への関心は高まっている。愛知県内の企業でステンレス溶接を学んだチバさんは「景気が悪くなって友達は皆ブラジルに帰った。でも僕は溶接ができたので帰らずに済んだ」と振り返る。

 文晶堂の従業員は30余人で、うち製造現場の作業員は現在、11人。日本人は50代の熟練技能者と20代の若手が中心で、中堅の技能者が不足気味だという。バブル経済が崩壊した当時、競争力維持のため、製造現場の技能者を設計などの技術部門に配置転換したためだ。加藤浩社長は「熟練工が少ない世代を、ブラジル人の彼らが埋めている。技能伝承の意味でも非常に助かっている」と話す。今後も優れた技能者がいれば、日系人労働者を採用していく方針だ。(細井卓也)

  日系ブラジル人のスキルアップ意欲  厚生労働省の日系人就労準備研修事業を受託している財団法人日本国際協力センターによると、2009年度に全国で開催した日系人向け就労支援講座に約6300人が受講し、ブラジル出身者が65%を占めた。溶接や機械加工の専門用語を学ぶ講座には定員を上回る応募があった。「日系人の間で日本語をさらに上達させて資格取得や技能向上につなげたい意識が高まっている」(同センター中部支所の後藤悟朗さん)という。

溶接作業をする(左から)マエダ・ジョンソン・トシオさん、イララ・マルコスさん、チバ・マルセールさん=岐阜県可児市の文晶堂で
溶接作業をする(左から)マエダ・ジョンソン・トシオさん、イララ・マルコスさん、チバ・マルセールさん=岐阜県可児市の文晶堂で