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【暮らし】<はたらく>就職への近道専門学校人気

2010/12/17

 就職難が厳しさを増し、仕事に直結する資格を身につける専門学校などの人気が高まっている。「調理師になる」など明確な目標を掲げ、自分の夢を追う若者たち。食の世界を目指して奮闘する二人の姿を追った。 (稲田雅文)

 名古屋市内の調理師学校で、白い調理服姿の男女三十九人が、黙々とジャガイモや大根の皮をむいていた。時間内に野菜の皮むきや卵料理をこなし、仕上がりを競う。審査員は正確さを採点する。

 来年二月に東京である「調理師養成施設調理技術コンクール」の全国大会に向け、十一月上旬に開かれた東海北陸地区大会。十五の調理師学校や高校調理課の生徒が日本、西洋、中国料理の三部門に分かれて技術を競い合った。

 この大会で全国大会出場を決めた蔵本凌さん(20)=名古屋市=は、普通科高校に入学後まもなく、学校へ行けなくなった。自分でも理由が分からないまま気分が落ち込み、毎日寝て過ごした。

 回復のきっかけが料理だった。食欲がなく、三週間ほどおかゆが続いたある日、母親の料理を口にして「おいしい」と感じた。「食べる幸せを感じてから、自然と徐々に回復した」と振り返る。

 もともと調理が好きで中学時代、調理師学校への進学も考えた。食べることで回復した経験から「やっぱり本当にやりたいのは料理」と思った。

 高校卒業後、ニチエイ調理専門学校(名古屋市中区)に入学。「高校時代は部活も何もかも中途半端だった」ため、一年生のときから全国大会出場を目標にした。先輩のアドバイスを受け、授業後などに猛特訓。目標は果たしたが、地区大会の出来には納得できていない。「社会に出る前に、やり遂げたと思える成績を残したい」と全国大会でも上位を目指す。

 来年四月からは、同市内のフランス料理店に就職する。「将来、自分と同じように落ち込んだ人を、食で癒やす店を開きたい」と夢を語る。

     ◇

 同じく全国大会出場を決めた和田凌さん(17)は、調理師になることを前提に高校を選んだ。岐阜市の城南高校調理科三年生。同科は飲食店で働きながら学ぶ研修制度があり、調理師と高卒の資格を取得できる。

 実家は岐阜県下呂市で旅館を経営。料理をする父の背中を見て育ち、自然と調理師を志した。和食の父に対し、フランス料理の店を持つ夢を描いていた。

 高校の隣に下宿して通学。入学直後からすし店で働き、給料を授業料や生活費に充ててきた。皿洗いなど下働きから始め、二年生になったころ揚げ物などの技術を学び、最近ようやく、すしの握り方を練習できるように。週末も働き、同級生と遊ぶ暇もないが「気になりません」と笑う。

 和田さんが今回、出場しているのは西洋料理部門。しかし、来春からは和食の道に進む。研修するすし店の社長(65)に、料理好きで熱心なところを買われ、卒業後も勤め続けるよう誘われた。「将来は実家を手伝うことになるかも」と考えている。

◆6年ぶりに生徒数増加
 文部科学省の学校基本調査によると、今年五月現在の専門学校の生徒数は約五十六万四千七百人で、前年に比べ約一万二千人(2・2%)増加。近年、減少傾向が続いていたが、長引く景気低迷の中で就職に有利な専門学校が見直され、六年ぶりに増えた。

 全国調理師養成施設協会によると、調理師学校の入学者数も減少が続いていたが、昨年に下げ止まり、今年は増加に転じた。東京都のある調理師学校は「大学全入時代で、大学に行く傾向が強かったが、不況が続いて就職に強い調理師学校が見直されているようだ」とする。

「緊張しないよう何度もオムレツ作りを練習した」という蔵本凌さん
「緊張しないよう何度もオムレツ作りを練習した」という蔵本凌さん