2010/12/10
上司によるパワーハラスメントを含めた職場内のいじめが、問題になっている。業務効率化や成果主義の行き過ぎで職場内にストレスが生じたり、閉鎖的で規模が小さい職場だと、人間関係のゆがみが生まれやすい。しわ寄せは、弱い立場の労働者に向けられ、精神的に追い詰められる構図が浮かび上がる。 (福沢英里)
東海地方にある機械部品の下請けメーカーで働く三十代男性は、今も忘れられない光景がある。
上司や同僚が集まった会議の席上、客からの苦情について原因と対策を報告するよう男性に求めた工場長が「みんなで(男性を)思いっきり責めてやれ」と言い放った。集団リンチのような雰囲気の中、さらし者にされ、男性は恐怖に身をすくめた。
派遣社員から正社員になった直後の昨年初め、景気悪化で工場の受注量が減り、週五日勤務が週四日に。賃金も減ったが、責任の重い仕事を任されるようになった男性だけは、仕事量が増えた。
他の班の仕事をするために休日出勤を命じられ、抗議すると「担当社員に言っても出てきてくれるわけないから」と理不尽な説明。工場長に相談すると「おまえには言いやすいからだろ」で片付けられ、休日出勤の手当も出なかった。
そんな状況の下、初めて担当した作業で部品の付け違えが起きた。現場監督らもその場でミスに気付かなかったのに、男性一人が責任を負うはめに。次第に不眠や食欲減退などの不調が出始めた。
病院で「抑うつ状態を伴う適応障害」と診断されて休職。復職後、「職場における心の健康づくり」といった労働者の健康管理に関する資料を工場長に渡したが、反応は鈍かった。
「パワハラをした側が自分の行為を正当と考え、自覚していないのが問題」と男性。個人で加盟できる地域の労働組合に入り、休日出勤分の手当支払いなどを求め、会社側と団体交渉を行っている。
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タクシー運転手を経てヘルパー二級の資格を取得した三重県内の男性(57)は、昨冬から高齢者のデイサービス施設で働き始めた。タクシー運転手のとき、病院通いをする高齢者の送迎で感謝され、やりがいを感じたのがきっかけだった。
介護業務補助と利用者の送迎が仕事のはずだったが、命じられるのは、炎天下での草刈りやトイレ掃除などの雑用ばかり。車で送迎をすると、施設の職員に後を付けられ「運転の仕方がおかしい」などと指摘された。
しばらくして施設長に「疲れているようだから一週間休んでは」と退職勧奨まがいの提案をされ、自己都合で辞めさせられそうに。拒むと、利用者と接触する仕事は一切させてもらえなくなった。
リストラなどで職を失った男性年配者の再就職先として増えているのが介護の職場。慢性的な人手不足にもかかわらず「若い人は体力もあって重宝されるが、五十代以上の男の代わりはいくらでもいる、と職場全体が冷たかった」と男性は肩を落とす。
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電話やメールで労働相談を受ける愛知県労働組合総連合の榑松(くれまつ)佐一議長は、相談ファイルをめくりながら「パワハラ、いじめ、うつ病の文字が目立つ」と話す。「自己責任論が叫ばれ、一人で抱えきれないほどのストレスを簡単に負わせてしまうような職場管理がまかり通っている」と危機感を募らせる。
東海労働弁護団の事務局長を務める樽井(たるい)直樹弁護士は「上司が部下の能力のなさを延々と非難するなど近年、職場での人権侵害へのハードルが低くなっている」と分析。上司の評価に不服を述べる体制も整備されておらず、部下は悩んでも行き場がない。
樽井弁護士は「人間らしい働き方を勝ち取るには、労働組合がもっと職場の人権を守るために取り組む必要がある」とも指摘する。
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