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【暮らし】<はたらく>世の中の課題に取り組む 社会的企業どう育てる

2010/12/03

 環境問題や貧困、過疎などの社会的課題の解決に取り組む「社会的企業」。政府が「新しい公共」の担い手として社会起業家に資金提供を始めるなど、あらためて注目されている。ただ資金援助は一時的なもの。志は高くても、継続できなければ起業の意味はない。必要な支援とは何だろうか。 (境田未緒)

 十一月二十三日、岐阜県郡上市のNPO法人「こうじびら山の家」が、三年前にNPOバンク「コミュニティ・ユース・バンクmomo」(名古屋市)から受けた融資の完済を祝うイベントが名古屋市内で開かれた。

 こうじびらは二〇〇七年に設立。田舎の遊びや暮らしの体験を提供するとともに、地域で暮らせる若者を増やすため仕事をつくろうと、廃屋だった宿泊施設を改修し、運営を始めた。

 事業は軌道に乗り始め、融資を受けた百五十万円の完済にこぎつけた。

 元手も経験もない代表理事の北村周さん(27)、副代表理事の河合美世子さん(33)に融資したのがmomo。市民から出資を募り、東海地方の地域課題を解決する事業を行う個人・団体に低利で融資している。

 特徴は、融資だけでなく、情報を発信したり、出資者と融資先の対話の場をつくったりする「非資金的な支援」。momo代表理事の木村真樹さん(33)は「経営資源を自分たちで集められるようになるまで人やモノ、情報の支援も必要」と語る。

 「momoレンジャー」と呼ばれる若手ボランティアが活躍。こうじびらに対しては、融資先訪問ツアーを企画し、出資者らが自然体験や郡上おどりなどを楽しんだ。河合さんは「momoのツアーで新しい企画を考え、ほかの団体客にも提案ができた」と振り返る。

 名古屋での完済イベントは、「解説付きできれいな星を見たい」「中長期のワークキャンプを」などと、momoの出資者やボランティアら参加者が、今後のこうじびらの事業展開のアイデアを出し合い、つながっていくことを約束し合った。

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 「HASUNA」(東京)は、発展途上国から適正な価格で仕入れたフェアトレード素材や環境に配慮して採掘した宝石を使ったジュエリーの制作、販売をする株式会社。昨年四月に創業した白木夏子さん(29)は当初、資金調達に苦労した。

 学生時代、インドの鉱山で過酷な労働を強いられる子どもたちの姿を目の当たりにしたのが原点。「児童労働を減らしたい」などと熱意を語り、知人らに出資を頼んだ。

 もう一つ、直面したのが人材不足。一人で素材調達から制作、営業、販売までこなし、長期計画を立てる余裕もなかった。

 手を貸してくれたのは、HASUNAの志に共鳴した社会人ボランティアら。仕事で培った技能をボランティアに生かす「プロボノ」で、営業やPRに協力する人は約三十人。正社員は白木さんを含め二人しかいないが、ミーティングは大人数となる。白木さんは「社会的企業では、特に最初の二、三年はプロボノの存在が必要」と実感している。

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 政府は昨年末、「地域社会雇用創造事業」として補正予算に七十億円を盛り込み、一人三百万円を上限とした「起業支援金」の提供、NPOや社会的企業で働く人材の育成を始めた。一一年度末までに八百人の起業支援、一万二千人の人材育成を目指す。

 ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京代表で、長く社会起業支援に携わる井上英之さん(39)は「お金から始まるのではなく、こんな世の中、地域にしたいと始めるのが社会起業。挑戦する人を支える生態系のような仕組みをはぐくむことが大切」と指摘する。

momoの融資で改修した「こうじびら山の家」で合宿する大学生ら
momoの融資で改修した「こうじびら山の家」で合宿する大学生ら