2010/11/19
景気低迷でリゾートホテルの客室稼働率が50%を割り込むご時世に、長野県下条村にある愛知県刈谷市の市民保養施設「サンモリーユ下条」は、毎年85%前後の高い稼働率をはじき出している。数十回も足を運ぶリピーターもいるという。公的施設ながら、民間事業者に委託してホテル並みのサービスを安く提供。直行便で往復の足も確保するという利用者の側に立った運営が人気の秘密だ。
高速道路を使って刈谷から2時間ほど。南アルプスの景観を一望できる立地にサンモリーユ下条はある。
「刈谷からそんなに遠くないし、価格も良心的。毎年2、3回訪れる」と話すのは、同市井ケ谷町の自営業前田弘子さん(69)。
客室は16室で定員72人。1998年の開館から8年間、客室稼働率は70%台で推移していた。2006年度からは10ポイント近く跳ね上がり、以後は85%前後で安定している。
飛躍の最大の要因は、刈谷から直行バスの運行を始めたこと。料金は大人が往復3900円。「高齢者などマイカーの運転がおっくうな客層を取り込めた」と鶴田芳樹支配人(39)は言う。
運営は指定管理者の西洋フード・コンパスグループ(東京)が行う。開館当初から、単年度ごとに運営を委託されていたが、06年度から指定管理者(本年度の指定管理料9016万円余)に。長期戦略が立てられるようになり、バスの運行に踏み切れたという。
もちろん低価格も売りもの。宿泊料金は7590~9140円。同社は企業内レストランや保養所の運営を全国展開しており、食材を低コストで仕入れることができる。
5種類の浴衣の中から好きなものが選べるなど、安いだけではなく、「ホテル並みのサービスを目指す」(鶴田支配人)と鼻息も荒い。というのも下条村は、天竜川下りを除けばさほど観光資源に富んでいるわけではなく、「施設そのものの魅力を高めていかないと集客できない」(同)からだ。
愛知県内の自治体では、名古屋、豊田、碧南、尾張旭の各市がそれぞれ、長野県内に保養施設を持つ。碧南が来春の閉館、売却を既に決めているほか、客室稼働率が45%前後に低迷している名古屋の施設も一時、売却が検討された。尾張旭も、施設の存続の是非を話し合う有識者らの検討会が8月に発足した。
自治体の保養施設が軒並み「冬の時代」を迎える中にあっても、サンモリーユ下条は利用対象を刈谷市在住者や在勤者などに限っている。「それでも高い稼働率を維持しているのは驚き」(尾張旭市の担当者)と、他の自治体からはうらやましげな声も聞こえてくる。
(浅井正智)
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