2010/11/19
企業などで女性を積極的に登用する「ポジティブ・アクション(PA)」の取り組みが進んでいる。男女の雇用機会均等が進んでも、特に営業分野や管理職では女性の能力を生かしきれていないのが実情だ。PAの現場を取材した。 (服部利崇)
「分かりました。私から(関係部署に)話しておきます」。千葉市美浜区の日本IBMのオフィス。メールマガジンの内容を話し合う会議で麻生かおりさん(46)が議論をまとめた。
メールや電話による非対面営業部門の部長で、部下は十人。男性職場と見られがちな営業部門では数少ない女性管理職だ。
一九八六年に入社。システムエンジニアなどを経て九四年から営業職を担う。結婚して二人の子を出産。部長昇進の打診は、二人目の育休が終わった四十一歳のときだった。「子どもも二人目。何とかなる」と応じた。
同社は、子育て世代の管理職が多いため、家庭と両立できるよう電話会議システムや短時間・在宅勤務などの制度を整えた。「会議が午後六時以降でも、自宅から電話で指示できる」と麻生さん。
積極登用と両立支援で、二〇〇三年に4・9%だった女性課長は今年11・4%に。女性部長も3・7%から9・4%に増えた。人事部の梅田恵さんは「市場の変化に対応するには、女性を含めた多様な視点が必要」と会社の狙いを話す。
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「素直にうれしいし、やりがいがある」。りそなホールディングス(本社・東京都江東区)の岩崎智子さん(35)は、財務部で国際会計基準の導入プロジェクトに携わり、充実の日々を送る。財務部ではここ数年、女性が責任ある立場で働く。岩崎さんは「輝いて働く先輩女性に触発された。仕事にスイッチが入った」と語る。
金融機関は女性が多いが「女性は事務」というイメージも根強い。同行では、イメージ一掃と女性の戦力化を進めるためPAに取り組む。男女問わず、やりたい仕事を選べる制度が特徴。高評価の社員限定で、異動したい部署を選べる社内FA(フリーエージェント)制度、細かい職種ごとに社内求人を出してやりたい人が手を挙げる社内公募制度も。岩崎さんはFAを活用した。
人材サービス部の西井多栄子さんは「自分がどんな仕事をして成長していくか、将来像を描けるようになり、頑張る女性が増えた」と話す。
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国連開発計画の〇九年報告書では、女性が政治・経済分野の意思決定に参加できるかどうかを表す「ジェンダーエンパワメント指数」は、日本は百九カ国中五十七位にとどまる。国は二〇年までに、指導的(意思決定をする)地位の女性の割合を三割にする目標を掲げる。だが衆院議員数(一〇年)10・9%、国家公務員管理職2・2%(〇九年)、三十人以上の民間企業管理職5%(同)の現状では、達成は厳しい。
厚生労働省の〇九年調査では、PAに「取り組んでいる」企業は30・2%。三年前から約10ポイント増えたが、規模が小さくなるにつれ数値は下がる傾向にある。
従業員二十人の近藤印刷(名古屋市)は、PA導入の検討を始めた。が、近藤起久子専務は、女性の働きやすい環境づくりが先と感じる。「最近まで女性専用トイレもなかった。『電話番は女性』などの役割意識も残り、男性側の意識改革も求めたい」
法政大キャリアデザイン学部の武石恵美子教授(人的資源管理論)は「女性の積極登用には、長時間労働などの見直しが欠かせない。一方、責任を負うことを敬遠しがちな女性の意識改革も進めるべきだ。多様な人材を育てる手段としてPAを活用していけば、グローバル化した経済社会に対応できる」と話している。
<ポジティブ・アクション> 管理職や特定職域での低い女性割合など男女間の待遇差を解消する企業の自主的取り組み。和訳は「積極的改善措置」。男女雇用機会均等法では性別を理由とした差別的取り扱いは違法だが、PAは除外される。働き方の見直しとPAをセットに、多様な人が生き生きと働ける環境を整備、組織を活性化させて業績に結び付ける人事管理法「ダイバーシティ(多様性)」を掲げる企業も多い。
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