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【暮らし】<はたらく>セクハラ 企業の対策強化も相談減らず 審査の基準ばらつくが労災活用を考えて

2010/10/22

 職場でのセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)の被害が後を絶たない。被害者なのに職場を追われて経済的に困窮し、精神状態が不安定になる人も。二〇〇七年の男女雇用機会均等法等の改正で、企業のセクハラ対策は強化されたはずだが、問題解決の道のりは険しい。 (福沢英里)

 三重県内の女性(29)は高校卒業後、自動車メーカーの工場に就職して半年ほどたったころから、年上の同僚男性に尻を触られるなどのセクハラ被害を受けるようになった。

 不自然に体を密着させてきたり、仕事帰りに自宅まで付いてきたり。精神的につらくなり、労働組合に駆け込んだが「我慢してくれ」と取り合ってもらえなかった。被害は続いたが、男性ばかりの職場で耳を傾けてくれる人もおらず、二年ほど我慢して、逃げるように会社を去った。

 その後に勤めた職場でもセクハラがあり、次第に不眠や腹痛、食欲不振などの症状がひどくなった。仕事を続けられず、現在は飲食店でアルバイトの生活。「誰も信じられなくなった」と消え入りそうな声で話す。

 セクハラが裁判に至ったケースもある。岐阜県内の市臨時職員の女性(49)は昨年、市主催の懇談会後の酒席で、当時民生委員だった男性(72)に尻を触られた。不眠や吐き気、食欲不振などの症状が出るようになり、市に男性民生委員の辞職や女性が安心して働ける職場への改善などを求めた。だが迅速な対応がなく、今月、男性と市を相手取り提訴した。

 提訴の理由を女性は「非正規の立場では職を失うのが怖く、訴えることに消極的になる。被害に遭っても仕事を辞めずに続けられる前例をつくりたかった」と話す。被告の男性は「セクハラするような場所ではなく、やっていない」と反論している。

     ◇

 この女性のように裁判で解決を目指す方法もあるが、セクハラという問題の性格上、被害者に負担が大きい。「企業などによる対策強化こそが必要」として二〇〇七年四月、男女雇用機会均等法が改正され、相談窓口の開設などが事業主の措置義務となった。

 しかし相談はなかなか減らない。全国の都道府県労働局雇用均等室に寄せられる均等法関連の相談はここ数年、セクハラに関する相談が過半数を占める=グラフ。労働局が〇九年度、企業に行った是正指導一万三千三百件の内訳を見ても、セクハラ関連が約八千八百件と最も多い。

 改正法では、労働局長が双方の言い分を聞き、助言や指導をする「紛争解決の援助」の対象にセクハラが加わった。〇九年度の援助の申し立て五百九十九件のうち、47%をセクハラが占めた。

 調停委員が双方の言い分を聞き、和解による解決を促す「機会均等調停会議」での調停も対象となり、〇九年度の申請件数は七十一件中セクハラが五十八件、男性からの申請も一件あった。

 解決への方策は整備されつつあるが、女性の労働相談などをしている「働く女性の全国センター」(東京)の伊藤みどり代表は「調停は打ち切りが可能。国は相談に乗ったら解決するまで対応するべきだ」と厳しい。

 解決策の一つとして伊藤代表が挙げるのが労災の活用。セクハラによる心の病は労災で、労災保険の対象となる。だが審査基準にばらつきがあり、〇九年度にセクハラによる労災と認定されたのは四件。過去五年を見ても毎年十件に満たず、ゼロの年も。

 同センターは昨年、女性への暴力根絶運動「パープルリボン・プロジェクト」の協力でセクハラ労災に関するパンフレットを作成、認定審査の適正化を国に要望した。

 伊藤代表は「セクハラで精神的に追い込まれる女性は少なくない。心の傷を癒やして生活を安定させた上で、社会復帰まで支援する安全網をつくらないと、根本的な解決にはならない」と訴える。