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【暮らし】<はたらく>コミュニティービジネス 地域の課題 会社が解決

2010/10/08

 過疎や高齢化、障害者の雇用など、地域が直面する課題を解決するため、住民自身が立ち上げた企業の活躍が目立っている。「コミュニティービジネス」という名の社会貢献を目指す会社で、営利目的の一般企業や、ボランティア団体とは一線を画す。従業員がはつらつと仕事して、地域を元気にさせる取り組みを見た。 (市川真)

 「熱いので気をつけてください」。名古屋市の「おちゃや ランチ&ショップ」。十九人の障害者が、接客などの仕事に励んでいる。昼時になると、約三十席の店内は満席だ。それもそのはず。自分たちで育てた新鮮野菜を中心としたメニューが自慢で、八百円で食べ放題が受けている。

 「この店で採算を取るのは難しいけど、地域への恩返しという気持ちもあるんです」

 同店を経営する有限会社チェリッシュ企画の石川千寿子社長は話す。同社は、看護師の石川社長が十年前に設立。訪問介護事業から始め、地域のニーズに応えているうちに、障害者デイサービスなど十ほどの事業を手掛けることに。

 従業員は、しっかり働けるパートを正社員化し、責任とやりがいを持って働ける環境をつくった。「障害者をただ預かっているだけではだめで、いつか自立できるように、励みになる給与にしているんです」

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 長野名物おやきの製造販売を手掛ける「小川の庄」(長野県小川村)は、六十代以上の従業員が全八十六人のほぼ半数を占める。最高齢は八十六歳。

 「こういう年になっても使ってくれるからありがたいね。お客さんに喜ばれるから元気が出る。年寄りでも、本当は働けるの」。かっぽう着に姉さんかぶり姿の松本藤子さん(78)は、大粒の汗を浮かべてまきをくべた。

 同社は一九八六年、村民出資の株式会社として設立された。家庭の味だったおやきを観光資源として見直し、高齢者の技を村おこしに生かした。現在、おやき製造を手掛けるのは同県内で二百社に上り、競争は激しいが、「ここに来て、おばあちゃんたちの姿を見ると元気になれる」という観光客の声が励みという。

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 コミュニティービジネスと似た言葉にソーシャルビジネスがあるが、コミュニティービジネスが地域的な課題を解決する地域的な限定があるのに対して、ソーシャルビジネスは社会全体の問題を対象としている。

 経済産業省が設置した研究会の調査では、コミュニティービジネスを含むソーシャルビジネス全体の事業規模(二〇〇八年)は、事業者数八千、雇用者数三万二千人、市場規模二千四百億円と推計している。国や自治体は起業支援を行っており、事業者数は増加しているとみられる。

 不景気の中でなぜ、このような事業が注目されているのか。同省地域経済産業グループは「ボランティアベースではなく、経済的にも自立した形で行う社会貢献に新しい価値を見いだす人が増えているため」とみる。

 コミュニティービジネスを支援する民間団体副理事長を務める鵜飼修・滋賀県立大准教授は、地域社会を見つめ直し、住民同士のつながりをつくることで、安全安心な社会を築くきっかけになりうると指摘する。

 「コミュニティービジネスは、地域のためという目的のほかに、自分のためという側面がある。携わる人の生きがいをつくり、助け合い社会の基盤を築く」

高齢者の技を村おこしに役立てる「小川の庄」。おばあちゃんが手作りしたおやきをその場で食べられるのが人気だ
高齢者の技を村おこしに役立てる「小川の庄」。おばあちゃんが手作りしたおやきをその場で食べられるのが人気だ