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やってみました 記者たちの職業体験ルポ シジミ漁師

2010/09/19

自然と対話 川底掘る

 ゆったりと流れる豊川がはぐくむ天然のシジミ。普段おいしく食べてはいるが、果たしてどのように採るのだろうか。三十年の経験を持つ漁師の藤城建二さん(66)に、指南をお願いした。
 午前九時、小さな船に乗って豊川下流の浅瀬(豊橋市下地町)へ。シジミ漁は川の水位が高いとできないので、漁師たちは天候の変化や潮の満ち引きをしっかり頭に入れている。まさに自然との対話だ。

 船の上でつなぎと長靴が一体になった「胴長」をはいた。これだけでも十分重い。よろよろしながらいざ水の中へ。水圧で足や腰がきゅーっと締めつけられ、なかなか前へ歩けない。モタモタする記者を「大丈夫かぁ」と心配しながら、藤城さんはどんどん深みへ進んでいく。

 シジミ採りには、「マンガン」という長い柄の付いた鉄製のカゴを使う。先端に鋭いつめがあり、くま手とカゴが合体したようだ。川底に沈めたカゴを腰ひもで引っ張りながら少しずつ後ろへ進む。同時に柄を前後に小刻みに動かすと、つめの部分が砂を掘り起こし、埋まったシジミがカゴに入る仕組みだ。藤城さんの実演を見て「できそう」と思ったのは大間違いだった。

 砂に食い込んだカゴは予想以上に重く、腰ひもで引こうにもなかなか動かない。柄を動かそうにも川の流れに押されて体が安定せずぐらぐらしてしまう。そうこうしていると砂地に足を取られ、転びそうになった。

 四苦八苦する記者に「難しいだろう」と笑いかける藤城さんが自分のカゴを引き上げると、シジミがごろごろ。「たくさんありますね」という記者の言葉に、「でも最近は量が減ったし、粒も小さくなってしまってな」と悲しそうな顔になった。

 漁師たちの間では稚貝を採らないよう取り決めているが、守られていない場合も多く、シジミは減少傾向だ。「大事な川の資源を守っていかないかん」。藤城さんの表情が引き締まった。(神谷恵里)

 【メモ】資格は特に必要ないが、区域によっては漁業権の取得が必要。採ったシジミは問屋やスーパーなどに卸す。粒の大きさによるが、卸値は1キロ約250円で取引されるという。漁獲量は年々減っており、シジミ漁師だけで生計を立てるのは難しい。副業や定年後の趣味としている人も多い。

腰まで水に漬かりシジミ漁をする藤城建二さん=豊橋市下地町で
腰まで水に漬かりシジミ漁をする藤城建二さん=豊橋市下地町で