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【暮らし】<はたらく>“仕事の技能で社会貢献 関心集める『プロボノ』

2010/09/17

 会社員らが仕事で培った技能を生かしてボランティアをする「プロボノ」が関心を集めている。得意な分野で社会貢献ができる上、社外の人との出会いや新たな視点が得られるのも魅力だ。 (竹上順子)

 「いいことをしていても、知られなければ広がらない。NPOの情報発信のために、皆さんにできることがあります」

 プロボノ希望者と支援を求める団体をつなぐ活動をしているNPO法人「サービスグラント」が、東京都渋谷区で開いた説明会。仕事帰りの会社員ら約十人が、担当者の言葉に耳を傾けた。

 大手メーカーに勤務する荘野真李子さん(28)は「学生時代のボランティアは労働力や時間の提供でしたが、プロボノはこれまで勉強したことが生かせそう」と意欲を語った。

 プロボノは「公共善のために」を意味するラテン語の略。米国で弁護士らが専門知識を生かして始め、二〇〇〇年ごろからほかの職種にも広がり始めた。日本では第二東京弁護士会が〇一年から、年間十時間のプロボノを義務づけ、会員の多くが法律相談やNPO支援などをしている。

 最近は調査や広報などの分野にも支援が広がり、個人で取り組む一般企業の社員も増えつつある。サービスグラントの嵯峨生馬代表は「本来ボランティアに関心がある人は多い。自分でもできると分かれば、やりたい人は多いはず」とみる。

 サービスグラントでは主に、パンフレットやウェブサイトの作成を手掛ける。「市民や行政とつながるために広報は欠かせないが、人材のいないNPOには製作が難しい。プロの力を提供してもらえれば、寄付金以上の効果になる」と嵯峨代表は話す。

 プロボノ希望者に特別な資格は必要なく、仕事の経験などに応じて「プロジェクトマネジャー」「マーケッター」「デザイナー」などに登録する。四~六人が一チームとなり、半年間のプロジェクトを担う。

 仕事の内容と期限が明確なため、初めて会った人同士でもスムーズに働ける。やりとりは主にメールで行い、全体会議は半年間で七回ほど。プロボノにかけるのは週五時間が目安で、「時間配分もうまくなった」「仕事の進め方の参考になった」という声も多い。

 〇五年の設立以来、四十五団体にサイトのリニューアルなどの支援を行い、団体から「理念を理解してもらって寄付金や会員が増えた」などの“成果”が報告されている。登録者は延べ約五百八十人。入社六~二十年の人が七割を占め、ボランティアは初めてという人が半分という。

    ◇

 企業の社会的責任(CSR)として取り組む会社も出てきた。NECは今年七月から、サービスグラントの協力で、社員向けプログラムを開始。グループ企業を含めて参加者を公募し、現在、社員十六人が二チームで、事業を通じて社会問題の解決を目指す「社会的企業」二社の顧客管理システムの開発と、サイトリニューアルに取り組む。

 CSR推進本部社会貢献室の池田俊一さんは「社員に生活者視点を磨いてもらうのも狙い」と話す。NECマグナスコミュニケーションズに勤務し、サイトリニューアル班に所属する田口真司さん(38)は「現場でのヒアリングには発見が多い。社会起業家にも興味があるので、いろいろ学びたい」と話す。

 日本でも広がりつつあるプロボノだが、課題は、支援を求める側との橋渡し役がまだ少ないこと。サービスグラントの嵯峨代表は「NPOと企業人は発想も行動様式も違う。成果を定義し、両者をつなぐ担い手が必要」と、適切な仲介者が増えていくことを期待している。

社会的企業の代表(中央)らにウェブサイトのリニューアルについて提案するNECグループの社員=東京都港区のNEC本社で
社会的企業の代表(中央)らにウェブサイトのリニューアルについて提案するNECグループの社員=東京都港区のNEC本社で