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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 金山寺みそづくり 発酵温度にこだわり

2010/09/08

 蒸したての麦と大豆計四十キロをステンレス製の作業台に移し、混ぜる。「やけどして手の皮がべろべろになっちゃうから」と言われゴム手袋を二重にしたが、手を思わず引き抜いてしまう。麦と大豆の山の温度は九〇度以上。引きつり笑顔で「あっついですねぇ」と言う記者に、「でしょう」と笑う従業員の伊藤エミ子さん(57)は素手だった…。
 豊根村下黒川の「山丁(やまちょう)豊根漬物」。添加物を使用しないこだわりの金山寺(きんざんじ)みそに迫ろうと経営者の田原直(すなお)さん(40)に体験を申し込み、山あいの静かな作業場を訪ねた。

 「冷ましすぎても駄目だけど、空気に触れさせて適度に熱を逃がしてね」

 発酵を促すのに最適な温度があるらしく、伊藤さんからアドバイスを受けて麦の塊をほぐしながら大豆と混ぜ合わせる。その後、こうじの種菌を混ぜ合わせてひとまず終了。汗がしたたり落ちないよう、ポロシャツの袖で額を何度もぬぐった。

 田原さんによると、製造過程で最も重要なのは発酵。麦と大豆を混ぜた金山寺みその“ベース”を発酵機で二日間保管してこうじ菌を繁殖させるのだが、この際の温度管理が難しい。最初は三〇度前後に設定し、見た目や感触で判断して温度を上げていく。

 しかし失敗することもしばしばで、納豆のようにネバネバになってしまい、廃棄することもざらだという。

 「材料や作り方には相当こだわってる」と田原さん。その分、もうけはないらしい。

 「もうからないのにどうしてやるの?」

 静岡県選出の衆院議員の秘書を辞して母・富喜子さん(73)が三十年ほど前に始めた実家を継いだ田原さんに尋ねると、「高齢化や過疎化の進む村で、地場産業として育てたいから。政治家の秘書になる前から、いずれ実家に戻ることは決めていた」。

 ちなみに、記者が手伝わせてもらった金山寺みそは発酵を終えた後にしょうゆを入れて一カ月間以上、冷蔵庫で寝かせ、シソの実やキクイモなど七種類の具と自家製たれを入れて完成。三百四十グラム入りが六百円、百七十グラム入りが四百円で、Aコープや豊根村の土産物店に並ぶという。(諏訪慧)

 【メモ】金山寺みそをつくるには、保健所からみその製造許可を得ることが必要となる。所得は売り上げに比例し、田原さんは製造の一方で、名古屋市内の大手百貨店の催事に参加するなどしてPRに取り組んでいる。それでも、みそだけで食べていくのは相当厳しいそうで、オリジナルの五平もちなども販売している。

発酵機に入れるため、混ぜた麦と大豆を別の容器に移し替える伊藤さん(左)ら=豊根村下黒川の山丁豊根漬物で
発酵機に入れるため、混ぜた麦と大豆を別の容器に移し替える伊藤さん(左)ら=豊根村下黒川の山丁豊根漬物で