2010/08/27
二〇一〇年度の地域別最低賃金(最賃)について、引き上げ額の「目安」が全国平均十五円と決まった。四年連続で十円以上の引き上げとなったが、働いているのに貧しい「ワーキングプア」の解消には程遠い。労働者の三分の一を「非正規」が占める現況に対応できていない、との指摘もある。 (服部利崇)
「フルに働いても手取り十五万円を切る。マンションのローンが払えなくなった」
神奈川県の配送会社に勤める女性(39)は肩を落とす。深夜勤務割り増しや残業代、交通費を入れても、七月の給料は額面で十七万七千円。二十二日間も働いたのに、六月から六万円も減った。
契約書もなく、あいまいだった自分の雇用形態を上司に確かめたのがきっかけ。無期雇用のはずが「一年の契約社員」と言われ、時給千円だった給料も「最賃で計算する」と一方的に通告された。
二トントラックの運転手。県内の工場で積んだ加工食品を、東京の小売十数店舗に納める。分単位での移動。食品は時に計二百キロを超える。女性にはきつい力仕事だ。
四十代の彼と、無年金で収入のない七十代の実母との三人暮らし。食費、ローンを含む住居費、光熱費は彼と折半だが、住居費の自己負担分六万円が工面できず、七月の住宅ローンを滞納した。食事も「モヤシや豆腐、納豆など安い食材が増えた」。
「彼とは仕事やお金のことでの口論が増えた。最低賃金では暮らしが成り立たず、家族がぎくしゃくする」。同じ境遇の仲間とユニオンに入り、会社と交渉している。
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現在の最賃額は、最も低い沖縄など四県が六百二十九円、最も高い東京が七百九十一円。生活保護費の水準が最賃を上回る「逆転現象」が十二都道府県で起きている。「目安」を受けて現在、各地方最賃審議会が改定額を審議しているが、今回の改定で逆転現象が解消するのは四県にとどまる見込みだ。
働く女性の全国センター共同代表の伊藤みどりさんは「家計補助的な働きの主婦パートや学生アルバイトを想定した現行制度は、非正規が主な稼ぎ手となっている現状に対応できていない」と指摘する。
日本の最賃は外国と比べても水準が低い。労働者の平均賃金と比べると、日本は30・4%の水準。同じ先進国のフランスの50%、英国の38%に遠く及ばない=グラフ。
最賃は、地域における(1)労働者の生計費(2)賃金(3)通常の事業の支払い能力-の三つの基準で決まる。基準は並列の関係だが、国学院大の小越洋之助教授(賃金政策)は「最賃は労働者の最低生活保障。生計費をベースに決めるべきで、事業の支払い能力を並列で扱うのはおかしい」と訴える。
日本は地域別に最賃を定めているが、世界では全国一律が標準という。全労連調査局長の伊藤圭一さんは「地域格差があると、働いても貧しいままの地方から賃金の高い都会へ人が流出。労働力不足と少子化がさらに深刻化する。フランスや英国も全国一律に転換した」と指摘する。
今回の改定議論前の六月、労使は「できる限り早期に全国最低八百円にする」ことで合意した。だが引き上げの前提条件である実質2%、名目3%の経済成長と、中小企業への支援策を引き合いに、使用者側は改定議論で大幅上げは困難と主張。合意実現には今後も曲折がありそうだ。
<地域別最低賃金> 国が定める法定の賃金最低額。都道府県ごとの地域別を採用、時給で示す。使用者はこの金額未満で雇用してはならず、違反すると50万円以下の罰金。毎年、政労使で構成する中央最低賃金審議会が地域別最賃改定の「目安」を決定、地方最賃審議会が都道府県ごとの改定額を決める。雇用形態を問わずすべての労働者と使用者に適用。最賃と生活保護水準との整合性に配慮することが、2008年の法改正に盛り込まれた。
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