2008/10/02
竹を原料に伝統の技
「シャーッ、シャーッ」。竹と木が擦れる滑らかな音が工房に響く。「荒矯(あらだめ)し」と呼ばれる作業。直径八ミリの竹を釜の火で熱して柔らかくした後、木製の道具でしごいて真っすぐにする。「自分にもできるかも」。お手本を見て思った。
しかし、道具を手渡されると、どう握ったら良いかさえわからない。竹を熱しすぎて、黒く焦がした。指先もやけど。手を動かすと、竹の曲がりは余計ひどくなる気がした。
弓道が盛んな土地といわれる岡崎市。市内を流れる矢作川の西側はかつて、その名の通り、矢の一大産地だったそうだ。若武者時代、弓の名手としてならしたという徳川家康の生誕地であることに由来するとか。
同市福岡町の工房「小山矢」の門をたたいた。市場ではすっかり、量産可能なアルミ製の矢が主流となっているが、竹を原料にして作る伝統の技を守る。
指導してくれたのは、小山泰平さん(28)。大学を卒業後に三年間、大手学習塾の講師としてサラリーマン生活を送ったが、その後、伯父と父が兄弟で営む工房に。三年目とはいえ、確かな技術の持ち主だ。
荒矯しのリベンジを期して、今度は、三枚の羽根を加工済みの竹に接着する「矧(は)ぎ着け」に挑む。「出前授業などで小学生にも体験してもらっています」と小山さん。左右の指を使い分けて、羽根を竹に糸で巻き付けていくが、指は思うように動いてくれない。時間もかかり、お世辞にもきれいといえない仕上がりになった。
小山さんは「僕だって、まだ半人前。でも、なかなかうまくいかないから竹は面白いんです。アルミと違い、お客さん一人一人の希望に応じて作れる。もっともっと鍛錬したい」。矢師としての誇りと決意がにじんだ。(相坂穣)
【メモ】 小山矢は1870(明治3)年に創業。竹矢作りを続ける全国でも数少ない老舗で、競技用から装飾用まで多様な矢を製造する。年商は約1億円。泰平さんの父三郎さん(60)が6代目の社長。従業員は20人でパートが中心。初任給は20万円弱。
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