2010/08/14
従業員の子どもや配偶者に職場を見てもらう「ファミリーデー」を行う企業が増えている。どんな職場で、誰と、どんな仕事をしているかが分かり、家族からも好評だ。背景には、従業員のワークライフバランス(仕事と生活の調和=WLB)への配慮がある。 (服部利崇)
「名川隆晟(りゅうせい)です。好きな色は青です」
緊張気味に名刺を差し出した隆晟ちゃん(5つ)は、外資系製薬会社ノバルティスファーマ(本社・東京都港区)人材・組織部採用グループの名川隆志さん(30)の長男だ。横では妹の茉凜(まりん)ちゃん(3つ)も名刺を準備する。
隆晟ちゃんから名刺を受け取ったのは名川さんの上司の梅本忠夫マネジャー(46)。名川さんを見ながら「お父さん、頑張っているよ」と声をかけられ、子どもたちも誇らしげだ。妻の由紀さん(30)も「お世話になっています」と話しかける。
同社は二〇〇六年からファミリーデーを実施。従業員の家族を毎年百人から二百人ほど招く。今年は三日に開かれ、従業員七十三人の家族ら百七十九人が職場を訪れた。
共働きなど働き方の多様化で、企業はWLBへの対応を迫られている。同社ダイバーシティ&インクルージョン室の赤津恵美子室長は「育児の都合で遅刻や早退をしたい場合、事前に子どもを見せておけば、上司や同僚も『あの子か』と理解を得やすくなる」と指摘する。名川さんも「急な休みでも、頼みやすくなるかも」と話す。
イベントは強制参加ではない。プライバシーを理由に敬遠する人もいる。しかし赤津室長は「長い会社人生で、介護や育児は避けられない。従業員の背後の事情を互いに理解し、助け合う企業風土がこれからは大切」と参加を呼び掛ける。
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〇七年から実施しているのは損保ジャパン(本社・新宿区)だ。今年は五、六日に従業員三百人の家族六百二十九人を本社に招いた。WLB目的に加え、職場や仕事について家族に理解を深めてもらい、従業員の働きやすさにつなげたいと考えている。
人事部の大川耕平さん(37)は小二の長女(8つ)を連れてきた。「真剣に働く同僚の姿を見せた。働くことの大変さを少しでも感じてほしい」。小二の長女(7つ)を連れた営業開発第二部の岡島隆志さん(38)は「娘は早い帰宅を望んでいるが、自分はチームで仕事をしている。遅い日があることを理解してもらえると思う」と話す。
労働政策研究・研修機構の中村良二主任研究員(人事管理論)は「単に従業員家族の職場訪問なら以前にもあったが、WLBにつなげる発想は新しい動き。社会に貢献し、従業員のWLBにも優しい企業というイメージアップ戦略があるのでは」とみる一方、「企業にとって、この不況下では業績の回復が最優先。余裕がないと導入は難しい」と分析する。
◆寸劇、体験型…工夫いろいろ
職場見学に加え、楽しみながら仕事を理解してもらおうと趣向を凝らす企業もある。
豊田通商(名古屋市)は二十五、二十六日に会社見学会「ようこそ豊通」を開く。職場での従業員の日常をとらえた映像を見せるほか、営業本部ごとにブースを設置し、扱う商品を紹介する。金属本部は若手社員による寸劇を行う。
二十六日開催の資生堂(東京都中央区)は、ヘアワックス作り体験を計画。既に実施した全日空(港区)は、パイロットや客室乗務員の制服を着ての撮影会、旭化成(千代田区)は自社製品を使い科学実験を行った。
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