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やってみました 記者たちの職業体験ルポ そば職人

2010/08/04

味向上へ『日々修業』

 昼時になると、いつも客でいっぱいになるそば屋が、豊田市役所の近くにある。人気の秘密を探ろうと、「蕎麦(そば) つちや」の店主、土屋賢治さん(31)に修業を申し込んだ。
 まず、その日の気温や湿度に合わせて、四種類のそば粉と水を調整して配合した粉をこねる「練り」を体験した。「こつは手のひらでやること」と助言をもらったが、粉が手のひらに付きうまくいかない。土屋さんは長野県で修業した七年間のうち一年間、練りだけをやっていた。それでも「まだまだ」と謙遜(けんそん)する。

 丸めた生地をのばす作業に入った。土屋さんは堅さの違うのし棒でサッ、サッと軽快にのばしていく。のばした生地のきめが細かければ細かいほど、のど越しに影響するという。

 薄くなった生地を畳み、専用の包丁で切る作業に挑戦。「生地の薄さよりも細い幅で切って」と難しい注文を受けた。見本を見せてくれたが、その早さに驚いた。

 見よう見まねで切るが、細くしようとすると、ゆっくりになる。逆に早くやろうとすると、めんは太くなるという悪循環に。なんとか、任された分を終え、一息つけた。

 土屋さんは、ここまでの流れを二十分ほどで終えるという。記者は一時間近くかかった。店舗を構えるには、相当の努力が必要になりそうだ。

 「では、ゆでてみましょう」。煮えたぎる湯の中に一人分のそばを入れ、四十秒たったところで上げる。そばをしめるため、水に入れるが、キンキンに冷えているので、手全体の感覚がなくなっていく。「もう、いいですよ」と言われ、そばを盛り付けると、ほっとした。

 早速、試食。土屋さんが切ったものより少し太いそばを口に運ぶ。「うまい」。思わず口にしてしまった。味見した土屋さんは「これだったら、十分お店に出せます」となんとか合格点をいただいた。

 「まだまだ修業中」と何度も繰り返した土屋さん。「もっとおいしいものを」というこだわりが、行列のできる店の“隠し味”のような気がした。(杉山直之)

 【メモ】資格は必要ないが、土屋さんによると、そば好きであることが一番。そば屋で修業するのも一つの手。土屋さんは初任給が11万円ほどだったという。現在は、3カ月間のそば打ちプロコースなどの講習会で、開業できる場合もある。

軽快な音を立てそばを切っていく土屋さん=豊田市元城町の「蕎麦 つちや」で
軽快な音を立てそばを切っていく土屋さん=豊田市元城町の「蕎麦 つちや」で